(問3) ―3 「緊張しながら私も笑顔を返す」とありますが、このときの「私」の様子を説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、「主人公の様子を説明しなさい」という部分です。「緊張しながら」はマイナス心情ですが、「笑顔を返す」はプラス心情です。このような、相反する心情を説明することが求められている問題であることを意識して解答しましょう。
相反する心情は、中学受験国語の頻出です。必ず注目するようにしましょう。
■なぜ「緊張」しているのか考える
まずは、なぜ主人公が緊張しているのか考えましょう。駅前の喫茶店で佐々木さんたちのグループが、主人公の悪口を言っているのを聞いてしまいます。そして、主人公はマイナス心情になっていることがわかります。
アイスコーヒーはまだ半分以上残っていたけれ ど、店を出た。梅雨明け開近、真夏のような太陽の光に思わず顔をしかめる。もう嫌われてしまったのか、という失望が、歩くたびに、足元から這い上がってくる。
強いマイナス心情が読みとれます。嫌われないよう努力していたのに、このような結果になってしまったことで、大きな失望を感じています。そのような状況で、悪口を言っていた佐々木さんと数人のママさんたちと出会うことに、主人公は緊張しているのです。この「緊張」には、「不安」や「気まずさ」などの心情も含まれていると考えられます。
■なぜ「笑顔」なのか考える
では、そのような状態でなぜ笑顔になっているのでしょうか。主人公が笑顔で関わらなかった場合のデメリットを、お子さんに考えさせてみてください。
- 悪口を言っていることが主人公にばれたと佐々木さんに悟られ、気まずくなってしまう。
- 主人公が急に態度を変えたことで不信感をもたれ、さらに嫌われてしまう。
このようなことは、お子さんが想像しにくいことかもしれません。主人公の心情を丁寧に解説してあげてください。要するに、主人公はさらに嫌われて関係が悪くなってしまわないように、「笑顔」で接していると考えられるのです。
■記述を完成させる
上記のように「緊張」していた理由と「笑顔」であった理由をまとめると、記述を完成させられます。
・「緊張」していた理由 → かげ口を言っていたママたちに会うことに気まずさを感じていたから
・「笑顔」であった理由 → さらに関係が悪くなってしまわないように明るく接していたから
これらをまとめていきましょう。
[正答]
他のママたちに嫌われて嫌われていたとわかり、今後の関係がどうなるか不安だったが、平静を装って親しげに接しようと気を張っている。
以下のような解答も考えられます。参考にしてみてください。
ママたちにかげ口を言われたことに傷つき、会うことに気まずさを感じていたが、さらに関係が悪くならないよう明るく接している。
(問4) ―4「ねぇ・・・・・・今度、家に遊びに来て。おいしい揚げ餅の作り方、この間教わったから」とありますが、以前のようなー線部「クッキー」ではなく「揚げ餅」をふるまおうとしていることからどのようなことがわかりますか。説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どのようなことがわかりますか」という部分です。「クッキー」でなく「揚げ餅」をふるまおうとしているのは「○○なこと」であると答えることをおさえましょう。解答するために、「クッキー」と「揚げ餅」が象徴しているものを考えていきましょう。
■「クッキー」が象徴しているものを読みとる
まずは「クッキー」が象徴しているものを考えましょう。どのようなクッキーなのか、分かる文を確認してみましょう。
(8ページ)
昨晩焼いたクッキーを、佐々木さんに手渡す。全粒粉ときび砂糖を使った手作り。私がさっきコンビニで買ったクッキーではない。
「全粒粉ときび砂糖を使った手作り」とあるので、ふつうのクッキーではなく、こだわりのクッキーであることがわかります。主人公がわざわざこだわりのクッキーを渡した理由は(問1)の問題とつながっています。「女の世界」で嫌われないようにいきていくために、主人公は様々な努力をしていました。こだわりのクッキーをつくった理由も、その一つであったと考えられます。つまり、「クッキー」は「女の世界」で嫌われないために取りつくろった主人公を象徴していると考えられるのです。
■「揚げ餅」が象徴しているものを読みとる
「揚げ餅」が登場するのは、甲斐さんの家で主人公がお世話になっている場面です。
(14ページ)
「これも良かったら食べて」
だんなさんがペーパータオルを敷いた木のボウルを私のほうに差し出した。
「あ・・・・・これ、揚げ餅」
「え、知ってるの?」
菜箸を持ったまま甲斐さんが居間に顔を出す。
「はい・・・・・・田舎で母がよく作ってました」
「杉崎さんって東京の人じゃないんだぁ。どうりでそのだっさいトレーナー似合うと思ったわ」
あはは、と笑いながら、また台所に戻っていった。
揚げ餅は、主人公が田舎で食べていたものだと分かります。「クッキー」とは対照的な食べ物です。つまり、「クッキー」が象徴している「取りつくろった自分」との対比であると考えられるのです。このように考えられるのは、「取りつくろった自分」では絶対にしないようなことを、主人公が甲斐さんの家でしているからなのです。
- 甲斐さんの家で化粧を落としてお風呂を借りる
- 甲斐さんに、本当は好きなチューハイを渡されて飲む(甲斐さんが勤めるコンビニでチューハイを買って、好きなのがばれている)
- 甲斐さんの食事を写真に撮ろうとするが、すぐにやめる
- 甲斐さんの家で、座ったまま寝てしまう
主人公の素がでていることがわかります。このようなことから、「揚げ餅」は「取りつくろった自分」と対照的に、「本来の自分」を象徴していると判断することができるのです。
■記述を完成させる
上記のことから、「クッキーではなく、揚げ餅をふるまおうとしている」ことが「取りつくろった自分ではなく、本来の自分で関わろうとしている」主人公の気持ちが読みとれるのです。「女の世界」で生きていくために演じていた主人公が、ありのままの自分を見せて、新たに人間関係をつくっていこうとしている覚悟が表れている場面であると言えるでしょう。その強い決意を解答で表現できるよう、留意しましょう。
[正答]
相手に嫌われまいと本心を隠して演じるのをやめて、これからは自分のありのままを見せて心を通わせようと決意したこと。
【2024】サピックスオープンテスト(開成) 物語文まとめ
今回の物語文はどうだったでしょうか。
お子さんには理解しにくい内容も多かったと思います。人間関係の複雑さなどを、お子さんが理解できる内容で語ってあげる機会にしていただきたいです。お子さんはこれから様々な人と出会い、人間関係に悩むこともあるでしょうが、それを乗り越える糧となることでしょう。
そして、主人公の決意の大きさも、語ってあげてほしいと思います。今まで散々努力してきたことを、人間(特に大人)はそう簡単に変えることができません。しかし、主人公はそれを変えて、素の自分で勝負することを決意したのです。素の自分を出すことに恐怖もあったでしょうが、「揚げ餅」をふるまおうとした主人公の決意を、ぜひ感じてほしいと思っています。
お子さんの心に響くよう、語ってあげてください!
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