豊島岡女子学園中学校の2024年度入試問題の物語文は『成瀬は天下を取りに行く』(著:宮島未奈)
2024年本屋大賞を受賞した話題作で、メディアでもよく取り上げられています。
主人公・成瀬が個性的で、人を惹きつける魅力をもっています。
自分らしく生きる姿に感銘を受ける人が多い作品なのではないでしょうか。
文章概要
あらすじ
この問題は【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】で、それぞれ別の場面が抜粋されているので、それぞれのあらすじをまとめます。
【文章Ⅰ】あらすじ
成瀬あかりは、幼なじみの島崎みゆきに見守られながら、様々な挑戦を重ねて成長してきました。しかし、島崎が大学進学とともに東京に引っ越すと知り、成瀬はショックを受けます。動揺した成瀬は公園で同級生の大貫と偶然出会い、助言を受けて気分転換に髪を切ることにしました。新たな気持ちで数学の基礎に戻り勉強を進め、髪を切ったことも島崎に報告しますが、彼女はやや不満そうに反応します。成瀬が様々な挑戦を続けては途中で諦めてしまうことが、島崎にとって気がかりになっていたのです。
【文章Ⅱ】あらすじ
大貫の視点で描かれる後半では、成瀬と大貫が高校1年の夏に滋賀県から東京大学の見学に出かける様子が描かれています。成瀬は東大見学後、さらに東京の西武池袋本店を訪れます。成瀬は故郷にデパートを建てる夢を語り、いつものように大貫を巻き込みながら視察のため写真を撮ります。また、成瀬が髪を剃っていた理由も明らかになり、彼は「髪が1か月に1センチ伸びる」という説を検証するためと語ります。このエピソードを通して、大貫は成瀬の独自の好奇心と行動力に再び驚かされるのでした。
登場人物とその特徴
- 成瀬あかり:挑戦を重ねるタイプの人物。自分のやりたいことに真剣に取り組み、目標を追い求める姿勢が特徴。髪を伸ばして実験するなど、好奇心旺盛である。
- 島崎みゆき:成瀬の幼なじみで、彼女を見守り続けてきた人物。
- 大貫:成瀬の同級生で、成瀬の数学に関してアドバイスをしてくれる人物。冷静であり、意外なアドバイスを成瀬に投げかける。
難しい言葉・重要語句の解説
- 感傷的(かんしょうてき):感情が異常に刺激されやすいさま。 特に、感情を最も刺激する悲哀感に引き入れられる場合が多い。
- 意表(いひょう)をついた:「予想外の」や「驚くべき」という意味で、意外性のある答えを示しています。
- 喫緊(きっきん):差し迫って重要なこと。または今すぐに対応しなければならない状況。
- 道理(どうり):物事の筋道、または理屈や正当な理由。
- 面と向かって(めんとむかって):相手の正面に立って直接。
- スキンヘッド:頭髪をすべて剃り上げた状態のこと。
- 数学Ⅰ(すうがくいち):高校の数学科目の1つで、数と式、集合と論理、二次関数などの基礎を扱います。
- 眉間(みけん)にしわが寄る:眉と眉の間にしわができること。困惑や不満を感じたときの表情。
- 愛想(あいそ)を尽かされる:呆れられて嫌われること。相手に見限られること。
- 胸(みね)にこみあげるものがある:感情が湧き上がってくること。喜びや悲しみ、懐かしさなどが心の中で高まる様子。
- 特筆(とくひつ)すべき:特に注目すべき点や、特に強調したいこと。
- 縮毛矯正(しゅくもうきょうせい):くせ毛や縮れた髪をまっすぐに矯正する施術方法。
主人公の心情
【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】は、別の人物の視点で書かれているため、それぞれの心情についてまとめます。
【文章Ⅰ】成瀬の心情
成瀬が幼なじみの島崎から大学進学のため東京に引っ越すと告げら
【文章Ⅱ】大貫の心情
大貫の視点から成瀬の姿が描かれます。高校の夏に成瀬と東京を訪れた大貫は、東京大学の見学を終えた後、成瀬に誘われて池袋の西武デパートに向かいます。成瀬が「故郷にデパートを建てたい」という夢を語る様子に、大貫は彼の大胆な発想に驚きながらも呆れと尊敬が入り混じった複雑な感情を抱きます。さらに、成瀬がスキンヘッドにした理由を「髪の伸びる速さを検証するため」と語り、大貫は彼の突飛な行動にあきれながらも、興味をそそられます。成瀬の挑戦心や好奇心を温かく見守る一方で、簡単に諦めないでほしいと感じる大貫の心情が描かれています。
重要問題解説[問6][問8]
今回は、正答率の低かった[問6][問8]を解説します。
[問6]選択問題 ―線⑥「こんなふうに~楽だろう」とありますが、この一文から読み取れることとして最も適当なものを選びなさい。
[問6]は選択肢の中から正しいものを選ぶ問題です。
まずは、―線⑥を注意深く読んで、「わたし」の心情を読み取らなければいけません。
[―線⑥付近の本文]
「わたしは将来、大津にデパートを建てようと思ってるんだ」
こんなふうに目標とも夢とも野望ともつかないことを気安く口に出せたらどんなに楽だろう。あの寂れた街にデパートを出店するのはさすがに無茶だと思うが、わたしが反論したところで成瀬が考えを改めるはずがない。
―線部の心情を考える
―線⑥で「わたし」の心情が一番表れているところは、「どんなに楽だろう」という記述です。
「成瀬」に対して「わたし」が抱いている感情が読み取れます。
「わたし」の「成瀬」に対する心情は、プラスとマイナスのどちらなのでしょう?
正解はプラスの心情です。
下の図のように、成瀬のわたしにはない部分を「いいな」と思っており
「うらやましい・憧れている」という感情をもっていることが読み取れる。
心情の原因を考える
では、成瀬のどんなところが「うらやましい」と思っているのでしょうか。
―線⑥の「気安く口に出せたらどんなに楽だろう」という記述から、
自分の思いや考えを、何の抵抗もなく言えるところがいいなと思っていることが読み取れます。
[心情を読み取る]→[心情の原因を考える]ということがとても重要です。
心情の原因は、心情のすぐ近くに書かれていることが多いです。
そこは特に注意深く読んでいきましょう。
選択肢のまちがいを見つける
選択問題のコツは、まちがいを見つけることです。最もらしい選択肢に惑わされないよう、まちがっている部分に✕をつけていくこと習慣をつけていきましょう。
(ア)✕「大貫は、将来に安定を求めており、野望など持っても意味がないと切り捨てている。」
→大貫が「野望を持つこと自体」を否定しているようなニュアンスですが、本文ではそのような描写はありません。大貫は成瀬の大胆な夢に呆れながらも感心している様子が描かれており、夢を気軽に口にする成瀬に憧れすら抱いています。
(イ)✕「大貫は、常に完璧を求めるあまりに、自分にできない挑戦はしないうちから諦めてしまう。」
→大貫が「完璧を求める」性格だとは描かれていません。また、大貫が挑戦を諦めているという具体的な描写もありません。大貫は成瀬の挑戦や行動力に対して感情を揺さぶられており、彼女の自由な発想に対してどこか羨望の気持ちを抱いています。
(ウ)✕「大貫は、失敗を恐れているので、将来のためには注意を重ねて計画を立てている。」
→本文には「失敗を恐れている」「注意深く計画を立てている」といった描写はありません。大貫は将来に対して明確なビジョンを持っているわけではなく、成瀬の自由な発想を目の当たりにし、自分との違いを感じています。
(オ)✕「大貫は、現実を悲観するあまりに、自由にのびのびと夢を描くことができないでいる。」
→大貫が現実を悲観しているという記述は本文にありません。大貫はむしろ、成瀬の夢に対して「無茶だ」と思いつつも、反論することで成瀬の考えを変えられないことを理解しており、現実に悲観しているというよりも、自分が夢を自由に語れない性格を自覚している描写が強調されています。
このように、選択肢をしぼっていきましょう。
正答の理由を考える
上記のように考えると、(エ)にしぼることができます。
(正答:エ)
→「わたし」は夢や希望を気軽に言うことができないから、それができる成瀬に対する憧れの気持ちをもっている。
「わたし」は「自分の思いを何の抵抗もなく言える成瀬」に対し憧れのような気持ちを抱いているので、(エ)が正答であると判断できるのです。
[問8]抜き出し問題 ―線⑦「成瀬は真顔で」とありますが、ここで成瀬はどのようなことを考えていたと考えられますか。【文章Ⅰ】から答えとなる二文続きの箇所を探し、最初の5字を抜き出しなさい。
[問8]が、大問2で一番正答率が低かった問題です。
―線⑦での「わたし(大貫)」の気持ちを的確にとらえ、さらに前半の文章から「成瀬」ならどのように感じているかを読み取らなければなりません。
文章の前半と後半で、視点の人物が変わっており、後半の「成瀬」の心情を前半から見つけていかなければならないという、複雑な問題になっています。
2人の視点で書かれているため、それぞれの心情を読み取ることが重要なのですが、
―線⑦のある一文を丁寧に読むと「わたし」と「成瀬」の気持ちはどちらも読み解くことができます。
―線部がある一文はとても重要です。
―線部の前後は特に注意深く読みましょう。
[―線⑦を含む一文]
また憎まれ口を叩いてしまったが、成瀬は真顔で「大貫の言うとおりだな」とうなずいた。
「わたし(大貫)」の心情を読み取ろう
「わたし(大貫)」の心情は、―線⑦の直前に書かれています。
「(成瀬に対して)また憎まれ口を叩いてしまったが」という部分です。
「叩いた」ではなく「叩いてしまった」と書かれています
「憎まれ口を叩いた」と「憎まれ口を叩いてしまった」のちがいはなんでしょう?
ここに、「わたし」が「成瀬」に言ってしまったことを後悔する気持ちが表れています。
「成瀬」に対して憧れの気持ちもあるが、それを素直に受け入れられない「わたし」
つい憎まれ口をたたいてしまったことで、「成瀬」を傷つけたのではないかと感じているのでしょう。
ほかの文章からも、似たような「わたし」の心情が読み取れます。
[19行目](わたしは)一瞬納得したが、同意するのは悔しくて「そうだね」と軽く答える。
ここからも、「成瀬」に対して素直な気持ちを表現できない「わたし」の心情が読み取れますね。
「成瀬」の心情を読み取ろう
この問いでは、「成瀬」の心情が問われています。
「成瀬」の心情は―線⑦も含めた『成瀬は真顔で「大貫の言うとおりだな」とうなずいた。』という文章に表れています。
「うなずいた」ということは、「大貫」の言葉に納得しているということです。
図で表すと以下のような構図になります。
つまり、「成瀬」は「大貫」を信頼しており、「大貫」の言うことはもっともだと思っていることがわかります。
文章Ⅰから「成瀬」の「大貫」に対する気持ちがわかる文章を見つける
以上の読み取りから、「成瀬」が「大貫」を信頼していることがわかる文章を見つけていきます。
大貫に対してプラスの心情が表れているところを探していきましょう。
[正答]
やはり大貫は何かが違う。面と向かってこんなことを言ってくれるのは大貫しかいない。
「こんなことを言ってくれるのは大貫しかいない。」という記述から、大貫に対するプラスの心情が書いてあることがわかります。
また、「やはり」という記述から、「以前も大貫に対して同じように感じたことがある」ことを指しており、それが―線⑦で書かれた「成瀬」の心情を指しています。
【2024年度】豊島岡女子学園中学校・物語文 まとめ
この物語を通して感じてほしいのは、「挑戦することの意義」や「自分の思いを貫くことの大切さ」です。成瀬は、さまざまなことに挑戦し続ける好奇心旺盛な人物ですが、時に途中でやめたり、周りとすれ違うこともあります。それでも、挑戦すること自体に価値を見出し、失敗や変化を恐れずに自分のペースで前進しています。この姿は、結果だけを求めがちな私たちに「挑戦し続ける姿勢」の大切さを教えてくれます。
挑戦をする中で周囲の人と意見が合わない時もありますが、自分の信念を持ちながら、相手の考えを理解することも大切です。この物語をきっかけに、挑戦の過程で学べることや、周囲とのコミュニケーションの重要さについて話し合ってみてください。
「挑戦において、結果だけでなく過程や経験も大切だということ」なども、親子で話し合えるといいですね。
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