吉祥女子中学校は東京都武蔵野市に位置する中高一貫校です。鷗友学園、豊島岡女子学園と並んで「東京の新女子御三家」と呼ばれています。豊かな教育環境のもとで「社会に貢献する自立した女性の育成」を掲げています。
今回の物語文は『給食アンサンブル』(著:如月かずさ)
転校して友人と別れることに不安を抱いている主人公の気持ちを察し、友人たちが行動を起こすことで、主人公の気持ちが変化していきます。小学生でも読みやすい内容ですね。
文章の概要
あらすじ
中学2年生の梢は、家庭の事情で転校を控えており、友人たちとの別れに不安を抱えています。弟の桂太が友達と交わした「友情の証」としてのメダルを誇らしげに見せるのを見て、梢は「そんな約束は無意味だ」と心の中で思ってしまいます。しかし、図書室で見つけたメッセージカードや、親友の美貴とのやりとりを通じて、友情や約束の価値について次第に考えを深めていきます。美貴から「二年後に卒業メニューのデザートを届ける」という約束を提案された梢は、友情を信じる勇気を持つようになります。友情の絆を通じて、別れを前向きに捉えようとする物語です。
登場人物とその特徴
- 梢:物語の主人公。転校を控えた中学1年生。友人との別れを恐れていますが、物語を通じて友情を信じる勇気を得ていきます。
- 美貴:梢の親友。クールで現実的な性格ながら、梢の不安を察して二年後の再会を約束するなど、友情に対して真剣に向き合う姿が印象的です。
- 桂太:梢の弟。友達と交わした友情の証としてのメダルを大切にしており、純粋に友情を信じる無邪気な性格。
- 道橋:クラスメート。梢に図書室の本をすすめ、これからも友情は続いていくことを伝えようとする。
- 桃、明華、沢ちゃん:梢の友人たち。転校を控える梢を支え、一緒に卒業メニューを分け合うなど、友情を深めるエピソードが描かれています。
難しい言葉・重要語句の解説
- 無性(むしょう)に:理由もなく、あるいは抑えきれないほど強く感じること。
- 衝動(しょうどう):瞬間的に起こる強い欲求や感情。理性では抑えきれない行動の動機。
- 身構(みがま)える:何か起こりそうなことに備えて注意を払ったり、心の準備をすること。
- 息(いき)をのむ:驚きや感動で、一瞬息を止めてしまうこと。
- 鼓動(こどう):心臓が規則的に動く音や、その動き。心臓がドキドキする様子。
- 筆跡(ひっせき):文字の書き方や筆づかい。その人が書いた文字の特徴。
- 目を丸くする:驚きや感心のあまり、目を大きく見開くこと。
- 虫がいい:自分勝手で都合の良い考えや行動をすること。
- 厳(おごそ)か:静かで重々しく、敬意を感じさせるような様子。
主人公の心情変化
梢は転校を前に、友達と別れる寂しさや「友情の約束なんて意味がない」といった不安や疑念を抱えていました。しかし、図書室で見つけたメッセージカードや、美貴との約束を通じて、友情を信じる気持ちを取り戻していきます。最初は約束が守られなかったときの悲しさを恐れていましたが、美貴の真剣な提案に心を動かされ、最後には友情を前向きに信じる決意をします。
重要問題解説 問3・問5・問6・問11
登場人物の心情を記述する問題が難しかったですね。また、主人公が「卒業メニュー」を食べる回数や、一緒にクレープを食べた人物の名前を問われており、正確に読まないとミスをしてしまう問題でした。今回は、それらの問題を解説していきます。
問3 ー線③「それじゃ意味がないんだ」とありますが、なぜ道橋はこのように言ったと考えられますか。本文全体をふまえて四十字以上五十字以内で説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「なぜ道端はこのように言ったと考えられますか」という部分です。理由を問われているので「○○だから」と解答します。
また、「本文全体をふまえて」と問題文にある場合は、―線部から離れた文の内容をふまえて解答する場合が多いです。これらのことをおさえて、答えを導いていきましょう。
■―線部の指示語の内容を明確にする
道橋のセリフの「それじゃ意味がないんだ」の「それ」は何を指しているのでしょうか。―線部に指示語がある場合は、必ず内容を明確にしましょう。
[本文]
「だから、上巻だけだって三学期中に読めるか自信ないんだってば。おもしろかったら、続きは転校先でまた借りて読むからさ」
「いや、それじゃ意味がないんだ。せめて上巻だけでも頑張って最後まで読んでくれ」
上は主人公のセリフで、下が道橋のセリフです。主人公の「転校先でまた借りて読む」というセリフに対して、道橋は「意味がない」と言っています。
つまり、「それ」とは、「転校までに上巻が読めなければ転校先で借りて読むこと」を指しています。道橋は、転校先で本を借りるのではなく、この本でなければ意味がないと言っています。―線部直後の「せめて上巻だけでも頑張って最後まで読んでくれ」というセリフからも、そのことがわかります。
指示語の内容を明らかにする場合は、直前の内容から読みとりましょう!
■(問われたこと)にできるだけ短い解答[記述の核]をつくる
記述問題のコツは、(問われていること)にできるだけ短い解答[記述の核]をつくることです。そのため、本文中から関係する記述を見つけていきます。
先ほど、道端は「転校先の学校で本を借りても意味がない」と言っていることをおさえたので、その理由がわかる文を探していきましょう。
[本文:上巻のカードを見つける場面]
『十年後にまたこの場所で!』
『離ればなれになっても、わたしたちはずっと友達でいることを誓います!』
カードにはそう書いてあった。
・・・(略)・・・
道橋があたしにこの本を押しつけたのは、これを見せたかったからに違いない。
主人公が上巻に入っているカードを見つける場面です。道橋がこの本にこだわった理由がわかりますね。この後に、主人公は道橋が下巻も勧めた理由が気になり、翌日下巻を図書室で見つけに行きます。問題文に「本文全体をふまえて」とあるので、その場面からも関係する部分を見つけていきましょう。
[本文:下巻のカードを見つける場面]
『わたしたちの友情は永久に不滅!』
カラフルな蛍光ペンで記されたメッセージが、誇らしく輝いているように見えた。
・・・(略)・・・
それを見た途端、あたしは目頭が熱くなった。桂太が友達と交わした約束を、あたしは鼻で笑った。そんな約束、なんの意味もないと。だけどこうして、十年越しに果たされた約束を目のあたりにして、あたしの心は揺れていた。
あたしも美貴たちと、こんな約束を交わすことができたら・・・・・・。
心の底から強い願いがあふれてくるのを感じながら、あたしはメッセージカードを見つめていた。ホームルームが始まることも忘れて、いつまでもずっと見つめていた。
赤マーカーの部分から、十年後に書かれたメッセージを見て、主人公の心が強く動いていることがわかります。道橋は、このメッセージを見せるために、主人公に本を借りさせたことがわかります。
つまり、「なぜ、道橋は『それじゃ意味がない』と言ったのか」という問いに対する短い解答[記述の核]は、以下のようになると考えられます。
[記述の核] 十年越しに果たされた約束に気づくことができないから。
■[記述の核]に文をつけ足し、記述を完成させる
[記述の核]ができたら、その前半に文をつけ足し、完成させます。つけ加える文は ①対比 ②原因 ③説明 のどれかを、状況によって選択する場合が多いのですが、今回は最初に述べたように―線部に指示語があるため、指示語の内容を明らかにする形で完成させましょう。
[正答例]
梢が転校先の学校で本を借りても、十年越しに果たされた約束に気づくことができないから。(42字)
前半の「梢が転校先の学校で本を借りても」という部分が、指示語の内容を明らかにした記述です。
問5 ー線⑤「あたしの心は揺れていた」とありますが、どのような思いの間で揺れていたのですか。次の[ ]にあてはまるように四十字以上五十字以内で説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どのような思いの間で揺れていたのですか」という部分です。「〇〇な思い」と解答する問題ですが、「どのような思いの間で揺れていたのですか」と問われており、「○○気持ち」と「□□な気持ち」の間で心が揺れ動いている状態なのです。よって、主人公は2つの思いが混在しているのです。つまり、以下のような解答の仕方になります。
[ ○○な気持ちと、□□な気持ち ]の間で揺れていた。
■主人公の2つの思いを読みとる
では、主人公にはどのような2つの思いがあったのでしょうか。これは、先ほど解説した(問3)と深く関連する問題です。改めて、―線部周辺の記述を読んでいきます。
『わたしたちの友情は永久に不滅!』
カラフルな蛍光ペンで記されたメッセージが、誇らしく輝いているように見えた。
・・・(略)・・・
それを見た途端、あたしは目頭が熱くなった。桂太が友達と交わした約束を、あたしは鼻で笑った。そんな約束、なんの意味もないと。だけどこうして、十年越しに果たされた約束を目のあたりにして、あたしの心は揺れていた。
あたしも美貴たちと、こんな約束を交わすことができたら・・・・・・。
心の底から強い願いがあふれてくるのを感じながら、あたしはメッセージカードを見つめていた。ホームルームが始まることも忘れて、いつまでもずっと見つめていた。
「だけど」という、逆接の接続語があるため、―線部を含む一文の前後に相反する内容が書いてあるはずです。前後の内容を確認していきましょう。
「だけど」の直前の文に「桂太が友達と交わした約束を、あたしは鼻で笑った。そんな約束、なんの意味もないと。」とあります。「桂太が友達と交わした約束」とは、「ずっと友達でいる」というものでした。その約束を、主人公は「なんの意味もない」と感じています。つまり、主人公の1つ目の思いとは、以下のようになります。
[主人公の1つ目の思い] → ずっと友達でいることなどできないとあきらめる気持ち
続いて、―線部を含む一文の直後の文を見てみると、「あたしも美貴たちと、こんな約束を交わすことができたら・・・・・・。」とあります。この「・・・・・・。」には、どのような言葉が入るのでしょうか。きっと「どんなに幸せだろう」などという気持ちが入るのではないでしょうか。つまり、主人公は本心では、ずっと友情が続いていってほしいと願っているのです。
[主人公の2つ目の思い] → 友情が続いていくように約束をしたいと強く願う気持ち
これをまとめると、以下のようになります。
[正答例]
[ずっと友達でいることなどできないとあきらめる気持ちと、友情が続くように約束をしたいと強く願う気持ち(49字)]の間で揺れていた。
[正答例]の赤字は「気持ち」を表す言葉です。必ず「気持ち」を記述するよう意識しましょう。
問6 [ ⑥ ]にあてはまる数字を漢字で答えなさい
この問題は「卒業メニュー」のクレープを主人公が食べるのが、今年で何度目になるかを読みとって答える問題です。ヒントになる文を探すため、[ ⑥ ]周辺の記述に注目しましょう。
[本文]
美貴が給食のトレイに載った豪華なメニューをながめて言った。卒業メニューは毎年恒例だけど、去年まで小中一貫の私立学校に通っていた美貴は、そういうメニューがあることを知らなかったらしい。
「卒業式の日だと、卒業生は給食出ないからさ。メニューはいつも違うんだけど、このデザートのクレープだけは、なんでか毎年変わらないんだよね。まあ、おいしいから全然かまわないんだけど」
あたしは『卒業おめでとう』とビニールの包装に印刷されたクレープ を美貴に見せて説明した。中学になっても給食センターは小学校のときと変わらないから、これを食べるのも、もう[ ⑥ ]度目になる。
「卒業メニューは毎年恒例」「デザートのクレープだけは、毎年変わらない」という記述から、主人公は毎年1つこのクレープを食べていたことになります。
さらに、「中学になっても給食センターは小学校のときと変わらないから」とあるため、主人公は現在中学生で、小学校の時もこのクレープを食べていたことがわかります。
つまり、小学生の時は、毎年1つこのクレープを食べているため、6年間で6度クレープを食べていることになります。
では、主人公が中学生になって何度このクレープを食べていたのかわかれば、[ ⑥ ]に数字を入れることができます。主人公が中学何年生なのかわかる記述を見つけていきましょう。
抜き出し問題などで、本文から言葉を探す場合、見当をつけることが大切です。主人公が学年を読みとるためには、どのような言葉を見つければよいでしょうか。「中学生」や「〇年」などがキーワードになりそうです。今回は数字を問われているため、本文の数字がヒントになる可能性が高いです。
お子さんに、どんな言葉を見つければよいか見当をつけさせることが大切です。
以下の文から、主人公の学年を読みとることができる文を、見つけることができたでしょうか。
[本文:主人公の学年がわかる文]
①お別れなんてしたくない。二年後の卒業のときも、この学校で美貴たちといっしょに卒業メニューを食べていたい。
②「でもその代わりに二年後、三年生のときの卒業メニューのデザートを、梢のところに持っていくわ。傷まないように冷凍して、週末に電車に乗って。絶対に、約束する」
①と②の文から、二年後に三年生になる学年であることがわかるので、主人公は中学1年生であるとわかります。つまり、小学生の時に6度食べており、中学生になって食べるのは初めてなので、今回が7度目であることが読みとれるのです。
問11 ー線⑪「四人はあたしのほうに向きなおり、同時にあたしのクレープを口にした。誓いの儀式のように、厳かに」について答えなさい。
(1)「四人」とはだれですか。次の1~9から四つ選び、番号で答えなさい。
この問題も、先ほどの(問6)と同じように、本文から必要な情報を読みとって答える問題です。―線部周辺の記述を見てみましょう。
美貴にクレープを手渡すと、となりの班の桃が美貴のところにやってきた。
「美貴ちゃん、わたしにも半分ちょうだい」
もちろん、と美貴がうなずいた。それから美貴が明華と沢ちゃんを呼ぶと、ふたりもすぐに飛んできた。あたしたちの話が聞こえていたのか、普段は給食中の出歩きを注意する辻井先生も、いまは黙って見逃してくれていた。
美貴が約束の説明をして、四つに分けたクレープをみんなに配った。それから四人はあたしのほうに向きなおり、同時にあたしのクレープを口にした。誓いの儀式のように、厳かに。
マーカーをつけた登場人物は5人です。※辻井先生は、選択肢に出てきていないので省略しました。
この5人のうち、―線部の4人はだれなのでしょうか。「四人はあたしのほうに向きなおり」とあるので、四人に「あたし」を含めてはいけません!
桃・美貴・明華・沢ちゃんの4人が正解です。
しかし、選択肢の中に「桃」はありません。残った選択肢の中から、「桃」を見つけていきましょう。
[残った選択肢] 1桂太 3飯島 4道橋 5高梨 6雅人 7梢
まず、「1桂太」は主人公の弟であるため、消去できます。「7梢」も、主人公の名前なので消去できるでしょう。
「3飯島」「4道橋」「5高梨」「6雅人」などの名前が出てくるところを、本文から探し、誰が桃なのか明らかにしましょう。本文の前半部分に注目できたでしょうか。
[本文]
「実は、高梨と雅人のふたりから、続けざまに同じ相談をされたんだ。転校する飯島のために、なにかしてやれることを思いつかないか、って」
「えっ、桃はともかく、足立まで?」
ああ、と道橋はこちらを振りむかずにこたえた。
「おれにそんな相談をされても困るんだけどな。ただ、たまたま飯島にぴったりの本を知ってたから、それを紹介しようと思ったんだ」
このように、人物に印をつけながら、読むことができていたでしょうか。「転校する飯島」とあるので、「飯島」=「あたし」=「梢」つまり主人公であることがわかります。
「道端」と「おれ」も同一人物です。このように、同一人物は線でつないでおくと、人物関係を整理することができます。
主人公と道端の会話文から考えると、「高梨」と「雅人」の、どちらかが「桃」で、どちらかが「足立」です。「高梨 足立」「雅人 桃」という組み合わせは苗字同士・名前同士なので相応しくありません。「高梨 桃」「足立 雅人」の組み合わせが正解となります。
つまり、「桃」は「5高梨」なのです。整理すると、以下のようになります。
[選択肢をしぼる根拠]
✕1桂太 → 主人公の弟
✕3飯島 → 主人公の苗字
✕4道橋 → 本文の前半に主人公に本を勧めてから登場していない
〇5高梨 → 「高梨 桃」という名前であると読みとれる
✕6雅人 → 「足立 雅人」という名前であると読みとれる
✕7梢 → 主人公の名前
登場人物を印をつけ、同一人物は線で結ぶ習慣をつけましょう。
【2024年度入試】吉祥女子中学校 物語文まとめ
今回の物語文はどうだったでしょうか。時間が気になる中、本文から必要な情報を探すことは、大変だったのではないでしょうか。次に活用できる汎用的なスキルを教えていくようにしましょう。
『給食アンサンブル』は、転校という大きな出来事を通じて「友情の絆」や「信じることの力」を描いた物語です。物語のテーマを親子で共有しながら、深い対話を通じて読解力を養うことが受験対策にも役立つはずです。ぜひ、以下のようなテーマで親子で話し合ってみるのはいかがでしょうか。
あなたが友達との友情を感じた経験を教えて
友達との別れを経験して、つらい気持ちになったことはある?
主人公と同じような心情になったことと、同じような経験をしたことを、お子さんが思い出すことで、より深く物語を読みとることができます。受験生にとって、友情や信頼といったテーマは、学びと人間関係を考える重要な機会となるでしょう。
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