【書評】『きみの話を聞かせてくれよ』中学受験国語で注目された作品の魅力を紹介

2024年度の中学受験で注目を集めた作品『きみの話を聞かせてくれよ』(フレーベル館)。本作は、多くの私立中学校で出題され、多様性や人間関係のあり方を問う重要なテーマを含んでいます。思春期特有の悩みや葛藤を描いた本作が、中学受験の出題に選ばれた理由や、その魅力を詳しくご紹介します。

本書の内容にも触れますので、ネタバレに注意してください!

『きみの話を聞かせてくれよ』最多出典の理由や魅力を紹介

『きみの話を聞かせてくれよ』とは

本作は村上雅郁による青春群像劇で、中学校を舞台に7人の主人公たちの視点から描かれる短編連作集です。それぞれの主人公が抱える悩みを丁寧に描き出し、思春期特有の孤独や葛藤、そしてそこからの成長を見事に表現しています。

本書では、「タルトタタンの作り方」や「シロクマを描いて」といった多様性をテーマにした短編が特に注目を集めており、駒場東邦中や海城中など、14校以上で出題されました。

本書の内容と見どころ

 1つの中学校を舞台にした多視点の物語

本作は1つの中学校を舞台に、7人の主人公それぞれの視点から描かれています。物語が進むにつれて、登場人物同士の人間関係が少しずつつながり、変化していく様子がリアルに描かれています。

さらに、登場人物のイラストや関係性がわかる紹介ページが付いており、読者が物語に入り込みやすくなっています。

各話のテーマと主人公たちが抱える悩み

本作では、主人公たちが抱えるさまざまな悩みが描かれています。

[友人とのすれ違いに悩む中学生の女の子]
近かった友人の気持ちが見えなくなり、寂しさを感じながらも、仲直りのきっかけがつかめないまま時間が経過する様子が丁寧に描かれています。

[ケーキ作りが趣味の中学1年生の男の子]
「かわいい」といじられることにうんざりし、自分の気持ちが蔑ろにされていることに悩む姿がリアルです。この話では多様性や性別の固定観念を超えたテーマが込められています。

黒野くんと「くろノラ」の存在

全話に登場する黒野くんは、主人公たちの心の絡まりを自然とほどいていく重要な存在です。具体的なアドバイスをするのではなく、そっと話を引き出したり、きっかけを作ったりするその姿は、物語全体に温かみを与えています。

また、作中にさりげなく登場する「くろノラ」という猫の存在は、最終話で黒野くんの過去とともに明かされ、読者に感動と驚きを与えます。

心に響く言葉たち

『きみの話を聞かせてくれよ』では、言葉による救いが描かれています。
タイトルの「きみの話を聞かせて」という言葉が象徴するように、ただ話を聞いてもらえることがどれほど救いになるかが各話で伝えられます。傷つける言葉もあれば、救う言葉もある。その繊細さが丁寧に描かれている点が本書の魅力です。本書の心に響く言葉をいくつか紹介します。

  • 「きみの話を聞かせて」
    黒野が繰り返し言うこの言葉は、誰かに話を聞いてもらうことで心が軽くなる大切さを伝えています。

  • 「お互いにわかりあえないんだってことが、わかってしまった。」
    友人とのすれ違いを感じ、距離を取った瞬間の気持ち。思春期特有の「他人の心が分からないもどかしさ」を表しています。

  • 「人は、枠組みから外れたやつがいるのがこわいんだよ。」
    黒野のこの言葉は、人が未知や理解できないものに対して抱く恐怖心を表しています。わからないものを攻撃したり、自分が理解しやすい枠にはめ込もうとする心理が描かれています。

  • 「言葉って、使い方を間違えたら凶器になるけど、使い方次第で誰かを支えたり、前に進ませたりもできるんだね。」
    言葉の力を示す黒野の言葉。傷つけることもあれば、支える力にもなると教えてくれます。

  • 「考えることから、人間は逃げられないって話。」
    黒野の言葉は、悩みを避けるのではなく、向き合うことの大切さを示しています。本質的な問題は簡単には目をそらせないという現実を受け止める必要性が伝わります。

  • 「ばかみたい。まじめにやらないならやめたらいいのに。」
    美術部の少女が発したこの言葉が、親友にとって大きな傷となります。彼女の才能が圧力となり、陸上部で悩んでいた親友を追い詰めてしまうきっかけとなる、人間関係の複雑さを象徴する一言です。

  • 「話を聞いてもらえるって、こんなに心が軽くなるんだね。」
    物語の終盤、話を聞いてもらうことの大切さに気づく言葉。誰かに話すことで心が楽になるというシンプルな教訓です。

村上雅郁の作風と他の作品

本作の作者である村上雅郁は、1991年生まれの児童文学作家。デビュー作『あの子の秘密』や代表作『かなたのif』など、子どもたちの視点を丁寧に描いた作品を多く発表しています。

特に『かなたのif』では、夢の世界を舞台に孤独な少女の願いをかなえる黒猫が登場し、本作の「くろノラ」と共通する幻想的な要素を楽しむことができます。村上氏の作品は、温かみがありながらも現実の子どもたちの悩みに寄り添うものが多く、中学受験でも頻繁に出題されています。

中学受験出題校での注目ポイント

本作が中学受験で多く出題された背景には、多様性や人間関係のテーマが時代性に合っている点が挙げられます。特に「タルトタタンの作り方」では、性別にとらわれない趣味や役割が問われ、また「シロクマを描いて」では個性を尊重する考え方がテーマになっています。これらの話は、子どもたちに「考える力」を養わせるための題材として非常に適しており、多くの学校で採用されました。

出題校は以下の通りです。

  • 栄東中
  • 専修大松戸中
  • 海城中
  • 駒場東邦中
  • 学習院中等科
  • 日本女子大附属中(第
  • 横浜雙葉中
  • 立教女学院中
  • 大妻中
  • 昭和女子大学附属中
  • 佐久長聖中
  • 同志社女子中

駒場東邦中の国語は、例年、非常に長い文章の読解1題の出題構成となっており、
2024年にはこの物語文が出題されました。解説記事を載せますので、ぜひ参考にしてみてください。

↓↓【2024年度】駒場東邦中入試問題の解説記事はコチラ

中学受験最多頻出『きみの話を聞かせてくれよ』 まとめ

『きみの話を聞かせてくれよ』は、多様性やコミュニケーション、言葉の力をテーマにした現代的な作品です。中学受験での出題を通じ、多くの子どもたちに読まれ、共感と学びを与えました。

本作を親子で読むことで、以下のようなことを話し合うきっかけになります。

  • 「自分の気持ちを誰かに聞いてもらう」ことの大切さ
  • 人を傷つけてしまうこともあるが、人を救うこともできる「言葉の力」
  • 多様性や個性を受け入れる視点

特に、小学校高学年から中学生が感じる悩みや葛藤に対し、「大人ならどう感じるか」「自分だったらどうするか」を考えることで、お互いの理解が深めることができます。

この物語を、親子や先生、そして子どもたち自身の間で対話を生むきっかけにしてみてください。

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