【2024】合格力判定サピックスオープン(第2回) 国語[大問2]物語文を解説

2024年10月20日実施、合格力判定サピックスオープン(第2回)の物語文は『尊敬する人はいません(今のところ)』(著:中山聖子)
小学生の「僕」が、大人に対して感じる理不尽さや価値観の違いに葛藤する物語です。宇宙やUFOの話で親密になった二人ですが、やがて大人の押し付けや干渉によってその関係が崩れていきます。

文章の概要

あらすじ

主人公の「僕」は、同じ学校に通う友だちのカナタと共に、宇宙やUFOについての本を読んだり、動画を観たりしながら放課後を楽しんでいます。カナタの母親が忙しく働いているため、留守が多く、子どもだけで過ごすことが多い場所です。二人は自由な時間を満喫していましたが、主人公の両親、とくに父親は、宇宙やUFOに関心を持つ「僕」の行動を心配し始めます。

ある日、父親から「根拠のないことを信じるのは危険だ」という説教を受けたことで、主人公は宇宙に夢中になる自分に否定的な視線を感じ、父親が自分を「ちゃんと見ていない」と不満を抱きます。さらに、父親はカナタの家庭環境についても懸念を示し、今後はカナタを自宅に呼んで遊ぶよう指示しました。「僕」は両親の監視の目の中でカナタと遊び続けることに抵抗を感じ、カナタと距離を取るため、受験勉強を理由に遊ぶ時間を減らすことを選びます。

登場人物とその特徴

  • 「僕」:宇宙やUFOに関心を持つ小学生です。物語が進む中で、両親の意見や価値観に戸惑い、自分の趣味や友人関係をどう守るべきか悩む場面が見られます。
  • カナタ:主人公の友だちで、市営団地の最上階に住んでいます。留守番をしていることが多く、母親が働いている間に主人公と自由に過ごしています。
  • カナタの母:カフェとスナックで働くシングルマザーで、カナタの家にはほとんどいないため、主人公たちにとっては自由な遊び場のようになっています。
  • 主人公の父:弁護士をしており、冷静で理論的な考え方を持つ人物です。宇宙やUFOに興味を持つ主人公の行動を心配し、「根拠のないことにのめり込むのは危険だ」と諭します。
  • 主人公の母:主人公の興味に対して当初は理解を示していましたが、徐々に心配を抱くようになります。夫と主人公の関係を気にかけ、家庭内の調和を図ろうとしています。

難しい言葉・重要語句の解説

  • 市営団地(しえいだんち):市が運営している大きなアパートやマンションの集合住宅。家賃が低めで、家族向けに作られています。
  •  保護色(ほごしょく):カメレオンや他の生き物が、敵から身を守るために周りの色と同じ色に変わることです。
  • 輪郭(りんかく):物の外側の形や線のこと。ここではカナタの表情や体つきがはっきりとわかる様子を表しています。
  • 踊り場(おどりば):階段の途中にある少し広いスペース。休憩したり方向を変えたりするための場所です。
  • 地球外知的生命体(ちきゅうがいちてきせいめいたい):地球以外の場所に存在する、知性や知識を持つ生物のことです。例えば、宇宙人やエイリアンなどがこれに当たります。科学やSFの分野で、地球以外の星に住む知的な生物がいるかどうかが研究されています。
  • スナック:飲み物や簡単な食べ物を提供する小さなお店です。日本では、夜に営業している飲食店の一種で、軽食とお酒を楽しめる場所のことを指すことが多いです。
  • 眉尻(まゆじり):眉毛の外側の端の部分。眉毛の先の部分が下がると、困っているような表情になります。
  • 根拠(こんきょ):ある考えや主張が正しいとする理由や証拠です。信じるための確かな理由を意味します。
  • 監視(かんし):他の人の行動をじっと見て、異変がないか確認することです。ここでは母親が監視するように息子の行動を見ている様子を表しています。
  • 遠くを見るような顔:実際に遠くを見ているわけではなく、心がどこか遠くに行ってしまっているような表情です。

主人公の心情変化

主人公は、宇宙やUFOに興味を持ち、友人のカナタと放課後を楽しんでいました。しかし、父親からの忠告や母親の行動により、自分が理解されていないと感じ、カナタとの関係にも悩むようになります。最終的に、主人公は受験勉強を理由にカナタと距離を置く決意をしますが、友情を断つことへの葛藤と罪悪感を抱えます。

重要問題解説 問1・問5・問6

この物語は比喩表現がたくさん使われています。注目して、比喩表現が表すものを読みとることができたでしょうか。今回は、比喩が表すものを読み解く問題を、3問解説しています。

比喩表現を正確に理解することで、物語をより深く理解できます!

(問1)選択問題 ―線①「学校にいるときの静かなカナタと、家で笑っているときのカナタは、まるで別人みたいだった」とありますが、学校と家でカナタの様子はどのように違うのですか。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どのように違う」のかという部分です。学校と家との様子の違いがわかるところを、本文から見つけていきましょう。

選択問題は最もらしい選択肢に惑わされないため、選択肢を読む前に自分で考えることが大切です。


■本文を読んで答えを考える
学校と家との様子の違いは、―線部の次の文に書かれています。

[家と学校との様子の違いがわかる文]
学校でのカナタは、カメレオンが自分を保護色に変えて身を隠すみたいに、周りの空気をぼんやりさせていたけれど、家にいるときのカナタは、顔や体の輪郭がとてもはっきりして見えるのだ。

カメレオンが自分を保護色に変えて身を隠すみたい」と「顔や体の輪郭がとてもはっきりして見える」というのは、どちらも比喩表現です。詳しく読みとっていきましょう。

カメレオンの比喩を読みとる】
まず、カメレオンのイメージを考えていきましょう。カメレオンは、周りの木や葉の色に体を変化させます。このことから、カナタは学校で目立たないようにふるまい、景色と同調しているような存在であることがわかります。カメレオンが擬態するのは天敵から身を隠すためで、クラスメイトとの関わりを避け、自分の存在をできるだけ消している様子も読みとれるのです。


顔や体の輪郭がとてもはっきりして見えるという比喩を読みとる】
学校では周りの景色に擬態し身を隠しているような状態ですが、家でははっきりとその存在が現れている状態であると読みとれるのです。この比喩は、カメレオンと対比的に書かれていることがわかります。つまり、家では安心できる場所で、自分を出すことができている状態であると読みとれるのです。

学校のクラスメイトの前では自分を出すことができないカナタですが、同じ趣味をもった主人公の前では自分を出せていることも大切なポイントです。


■選択肢のまちがいを見つける
本文の比喩表現から読みとれることを考えたので、選択肢を確認していきます。子どもはどの選択肢も合っているように思ってしまいがちなので、選択肢のまちがっている部分を見つけていくことが大切です。

(ア)学校では勉強についていけず
(エ)✕興味が持てることがなにもないため退屈そうなのに対し
→カメレオンの比喩から読みとっていくと、カナタが存在を消しているのは他者との関わりを避けていたからだと考えられます。「勉強についていけない」「興味が持てることがなにもない」というのは、クラスメイトとの関係について述べているわけではないので、誤りです。

(ウ)✕家では一人でいるのでくつろいでいる
→「僕」の視点で書かれているため、「僕」と二人でいるときにカナタがいきいきした様子であったことがわかるのでまちがい。


■正答の理由を考える
(イ)の選択肢は、「存在を消している」という言葉がカメレオンの比喩と合致します。また、「僕」といるときにカナタはいきいきと自分を出している様子がわかるので、後半の部分も相応しいと言えます。よって、正答は(イ)になります。

正答:(イ)
学校では周りになじめず存在感を消しているのに比べて、家では気の合う友だちと好きなことに没頭して生き生きしている。


(問5)選択問題 ―線⑤「母さんこそがエイリアンだ」とありますが、このとき「僕」が母さんを「エイリアン」だと思ったのは、母さんがどのようなことをしたからですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「母さんがどのようなことをしたからですか」という部分です。主人公が母さんを「エイリアン」だと思ったのは、母さんのどのような行動からなのか、考えていくようにしましょう。


■本文を読んで答えを考える
本文を読んで、母さんが何をしたから主人公が「エイリアン」だと思ったのか、読みとっていきましょう。―線⑤の次の文に「掃除機を片手に部屋に入って、僕の大切な世界を侵略してくるエイリアン」とあります。つまり、「母さんが部屋に入って僕の大切な世界を侵略したこと」で、主人公は「エイリアン」だと思ったのです。この表現を深く理解するため、この比喩について考えていきましょう。

エイリアンの比喩を読みとる】
「僕の大切な世界を侵略してくるエイリアン」とありますが、エイリアンは地球外の惑星からやってくる侵略者です。「僕の大切な世界」とは、宇宙やUFOについて想像を膨らませて楽しんでいる、主人公の趣味の世界です。僕が大好きな趣味の世界を奪おうとしている母さんが、「エイリアン」と重なっているのです。

【主人公の心情を読みとる】
このような母の行動を、僕はどのように感じているのでしょうか。心情を読みとっていきましょう。

裏切られた。生まれて初めて、そんな言葉も頭に浮かんだ。悲しいのと腹が立つのと、わけのわからない恥ずかしさとで、体中がいっぱいになった。

多くのマイナス心情が読みとれます。主人公は母に心を開いて自分の趣味の世界の話をしていたので、強い怒りの感情もわいてきたのだと考えられます。


■選択肢のまちがいを見つける
本文の比喩表現から読みとれることを考えたので、先ほどと同様、選択肢のまちがいを見つけていきましょう。

(イ)父さんに告げ口して
→父さんに告げ口をしたのはまちがいではないが、「告げ口をしたこと」ではなく「部屋に侵入したこと」に対してエイリアンだと思っているのでまちがい。

(ウ)✕「僕」の大切な趣味を馬鹿にして
→(P9・9行目~)父のセリフに「お母さんが、悲の部屋に、わけのわからないノートや本があるって言うんだ。掃除をするときに見つけたらしい。いつも友だちの家や部屋にこもってばかりだし、だいじょうぶなのかって気にしてる」とあります。両親は馬鹿にしているのではなく、心配して主人公に話しているためまちがい。


■微妙な選択肢を比較して正答を導く
エイリアンの比喩から読みとれることを考えると、(ア)と(ウ)の選択肢はどちらも「部屋に侵入」したことに対する主人公の気持ちについて書かれています。このような微妙な選択肢は比較して、二つの違いに着目します。

(ア)「僕」の部屋に無断で入り、誰にも知られていなかった趣味を暴いたこと
(ウ)「僕」 にとってかけがえのない場所に無神経に踏みこんで、荒らしたこと。 

(ア)「誰にも知られていなかった趣味を暴いたこと」と(イ)「荒らしたこと」とを比較し、どちらがよりエイリアンの比喩に相応しいか考えていきます。上記で確認したように、エイリアンは侵略者です。「趣味を暴いたこと」ではなく「部屋に侵入し荒らしたこと」に主人公は強い怒りを感じているため、(イ)がより相応しいと考えられます。

■正答の理由を考える
このように考えると(ウ)が正答です。『「僕」 にとってかけがえのない場所に無神経に踏みこんで』という内容も、「僕の大切な世界を侵略してくる」という本文の記述と合致しているため、正答であると判断することができます。

(問6)選択問題 ―線⑥「開けた口に飛びこんだ小さな虫を、吐き出すみたいに」とありますが、これは父さんのどのような様子をたとえたものですか。最もふさわしいものを次の中から選び、記号で答えなさい。

■(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どのような様子をたとえたものですか」という部分です。この問題も、比喩を読みとり父さんの様子を答える問題であることがわかります。この問題でも、比喩表現について考えていきましょう。


■本文を読んで答えを考える
父さんが「開けた口に飛びこんだ小さな虫を、吐き出すみたいに」言った内容や心情を、丁寧に読みとっていきましょう。

 そう話す父さんに、「そんなの知ってる」と言いたかった。カナタも僕も、もちろん情報のすべてを信じているわけじゃない。
 だけど父さんは、「くだらないことだ」 と言い切った開けた口に飛びこんだ小さな虫を、吐き出すみたいに
 そして、「父さんは仕事柄、ありもしないものを信じて、それがぜったいに正しいと思いこんでる人たちをたくさん見てきた。 妙な団体に入ったり、だまされて高額なものを買わされたりして、たいへんなことになった人たちが大勢いるんだ」と、僕の顔をにらむように見た

父さんのマイナス心情が読みとれます。「くだらないことだ」と父さんが言い切ったのは、主人公とカナタが楽しんでいる宇宙やUFOの話です。(P9・22行目~)「根拠もないようなことを信じるのはとても危険なんだ」という父さんのセリフから、宇宙やUFOに主人公がのめりこむのをやめさせたいと思っていることがわかります。

開けた口に飛びこんだ小さな虫を吐き出すという比喩について考える】
続いて、比喩について考えていきましょう。まずは、「口の中に虫が入ったらどんな気持ちになるか」を、お子さんに考えさせてみてください。お子さんは「気持ち悪い」「最悪」「すぐ吐き出す」と、答えるのではないでしょうか。

比喩が表していることを、リアルにイメージさせましょう。

つまり、父さんは嫌悪感をもって「くだらないことだ」と言っていることになります。では、誰に対する嫌悪感なのでしょうか。それは、―線⑥の後の父さんのセリフにもあるように、ありもしないものを信じている人に対する嫌悪感です。主人公は、その嫌悪感が自分にも向けられていると感じています。父として、息子を心配する気持ちがあったのでしょう。しかし、心配する気持ちよりも、根拠がないものを信じていることへの嫌悪が表れてしまっており、それが主人公に伝わっているのです。


■選択肢のまちがいを見つける
本文の比喩表現から読みとれることを考えたので、先ほどと同様、選択肢のまちがいを見つけていきましょう。

(ア)ありもしないことを広めて子どもをまどわしている大人たち
(ウ)✕本当のことのように平気で嘘をつく大人たちがこの世界にいることを
→先ほど読みとったように、父さんはありもしないものを信じている人に対する嫌悪感を示しているので、まちがい。

(エ)✕非現実的な話を信じる人たちは何を言っても考えを改めないので
→父さんのセリフに「そういう人たちは、自分をしっかり持っていないから情報に流されるんだ。自分で深く考えて、正しいことを見極めようとしないから」とあります。「何を言っても考えを改めない」のではなく「自分の考えをもっていない」ことが原因であると考えているのでまちがい。

(ア)✕怒りを感じている。
(ウ)✕残念だと感じている。
(エ)✕うんざりしている。
→「開けた口に飛びこんだ小さな虫を、吐き出すみたいに」という比喩は、嫌悪感を示す比喩なので、上の3つの表現はどれもあてはまらない。「口に虫が入った時に、残念だと感じないよね」というように、比喩表現と合わないことを確認してあげてください。


■正答の理由を考える
このように消去していくと(イ)が残ります。(イ)が正答である理由を考えていきましょう。

(イ)父さんにとって価値のないものに夢中になっている人たちに対して嫌悪感を示している。 

比喩表現を読みとっていくと嫌悪感という心情は正しいと考えられます。その嫌悪感は「ありもしないものを信じている人たち」に向けられています。父さんは宇宙やUFOについて情報を集めることをやめさせようとしているので、「父さんにとって価値のないものに夢中になっている人たちに対して」嫌悪感を示しているという選択肢は最もふさわしいと考えられます。

【2024】合格力判定サピックスオープン(第2回) 説明文まとめ

今回の物語には、大人が読んで「はっ」とする内容が多く含まれていたのではないでしょうか。私自身、小学一年生の娘を持つ父親ですが、読みながら「親としての権威で子どもと接していないか」「自分の都合や価値観を押しつけていないか」「本当に子どもの気持ちを理解し、寄り添えているか」など、様々なことを考えさせられました。

物語の中で、大人に対して感じた理不尽さが小学生の目線で生き生きと描かれており、自分自身の子ども時代を思い出しました。そして、大人になった今、気付かぬうちに自分が子どもに同じような思いをさせていないかと、深く考えさせられたのです。きっと多くの保護者の方々も、同じようにご自身を振り返るきっかけになるのではないでしょうか。

この物語をきっかけに、ぜひお子さんと一緒に感じたことや気づきを話してみてください。子どもが何を感じているかを知る、素晴らしい対話の機会になると思います。

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