山脇学園は、1903年創立の歴史ある女子校で、2023年に創立120周年を迎えました。東京都港区赤坂に位置し、複数の地下鉄駅からアクセスが良く、便利な立地にあります。この学校は、充実した施設と多様な教育プログラムを特徴としています。
山脇学園の人気の理由として、伝統的なお嬢様校としてのイメージや、かわいらしい制服も挙げられます。また、文化祭などの行事の盛り上がりや、生徒たちの落ち着いた雰囲気も多くの人々に好評です。卒業生には有名人も多く、そうした卒業生の影響力も学校の人気を後押ししています。さらに、進学実績の高さも魅力の一つで、名門大学への進学者が多い点が、保護者や受験生の支持を集めています。
2024年度の物語文は『八月の御所グラウンド』より 第1話「十二月の都大路上下(カケ)ル」(著:万城目学)が出題されました。読みやすい作品ですが、人物の心情の変化やその背景、そしてテーマを捉えることが重要です。坂東と咲桜莉、さらに荒垣祈菜とのやり取りを通して、仲間との信頼関係や自分自身の成長の大切さを読み取っていきましょう。
文章の概要
あらすじ
高校一年生の「私」坂東が、全国高校駅伝大会の補欠選手として京都に訪れた際の出来事を描いています。物語の主要な部分は、突然の出場決定に対する「私」の不安や葛藤、そして仲間たちとの交流を通じて成長していく姿が描かれています。
登場人物とその特徴
- 坂東(サカトゥー): 緊張しながらも、仲間の言葉に支えられ成長する高校一年生の陸上選手。
- 咲桜莉(さおり): 坂東を応援しつつ、自分も走りたかったという複雑な感情を抱える同級生。
- 荒垣(あらがき): 坂東のライバルであり、冷静で強い意志を持つ他校の陸上選手。
難しい言葉の解説
- 駅伝(えきでん):いくつかの区間に分かれたコースを、複数の選手がリレー形式で走る長距離競技のことです。選手たちは「たすき」と呼ばれる布をバトンの代わりに次の選手に渡していきます。
- 区間記録(くかんきろく):駅伝のそれぞれの区間で出された最高のタイムのことです。
- 無我夢中(むがむちゅう):何かに心を奪われて、周りのことが全く目に入らない状態のことです。
- 存外(ぞんがい):予想していたよりも意外に、という意味です。例えば、「存外においしい」とは、思っていたよりもおいしいということです。
- 踵を返す(きびすをかえす):体の向きを急に反対方向に変えることを意味します。例えば、話を終えた後に急いでその場を去るときなどに使います。
- 矢継ぎ早(やつぎばや):矢を続けて放つように、物事を次々と素早く行う様子を指します。
主人公の心情の変化
主人公の心情の変化やその原因を明確にし、マイナスからプラスへの転換点を注意深く読むことが重要です。
「私」は、走り終えた後、咲桜莉が本当は走りたかったのに自分を励ましてくれたことに気づきます。「私」は、咲桜莉の気持ちに気づかなかった自分への強い自己嫌悪を感じます。しかし、物語の最後で荒垣さんとの会話を通じて、「私」は来年も咲桜莉と一緒に大会に挑戦しようという前向きな気持ちを抱き、自己嫌悪を乗り越えて新たな決意を胸に成長します。
ここでは、「心の成長」が強調され、物語のテーマが締めくくられています。
重要問題解説 問1・問2・問6・問7・問8
今回解説する問題は、解答するのが困難な5問にしました。選択肢が微妙で選びづらい選択問題[問1][問8]。心情を読み取って記述する問題[問2][問6]。本文中の出来事を時系列で並び変える[問7]。
順に解説していきます。
[問1]選択問題 —線①「強い声を発した」とありますが、このときの咲桜莉についての説明として最も適当なものを選びなさい。
咲桜莉が強い声を発した理由
物語の中で、咲桜莉は「私」に対して、自分が走りたかったという本音と同時に、「私」の走り方を本当に応援しているという気持ちを伝えました。しかし、「私」がそれを「お世辞」として受け取ってしまいます。
その結果、咲桜莉は「違うよ」と強い声で反論しました。これは、自分の本当の思いを「私」に理解してもらいたいという強い気持ちからです。咲桜莉にとって、その瞬間の「私」への言葉は決して「お世辞」ではなく、彼女の心からの思いでした。だからこそ、彼女はその誤解を正すために、感情が高ぶり、強い声で「違うよ」と言ったのです。
咲桜莉の「自分も走りたいが、友達の坂東も応援したい」という相反する感情は、中学受験国語の頻出問題です。必ず注目するようにしましょう。
選択肢のまちがいを見つける
(ア)
✕「私」にはぐらかされたように感じ
→咲桜莉は「正直な気持ちを理解してほしい」と考えており、「はぐらかされた」とは思っていない。
(イ)
✕改めて応援の気持ちを届けようとしている
→この場面で、咲桜莉は「応援の気持ちを」ではなく、自分の本心を伝えようとしているのでまちがい。
(エ)
✕否定されたことにかっとなり、人目も気にせずむきになっている
→怒りの感情から強い声になっているわけではないのでまちがい。
咲桜莉は「違うよ」と強い声を発していることから、「私」の言葉を否定してでも自分の本心を伝えたいと思っているので
(ウ)「私」の走りを自分が認めていることや自分の正直な思いを、「私」 に伝えたいと思っている。
(ウ)の選択肢が正答であると言える。
[問2]記述問題 ー線部②「彼女が当然抱くであろう気持ち」とは、どのような気持ちか答えなさい。
―線②がある一文を注意深く読みとる
―線がある一文は、すべてに線を引いて、注意深く読みとっていかなければいけません。
〈―線②を含む一文〉
真っ赤に充血した彼女の目と正面で出会ったとき、菱先生から出場を 告げられ完全にテンパってしまったのをいいことに、咲桜莉の心遣いにも、彼女が当然抱くであろう気持ちにも、何も気づいていなかった、何も見えていなかった己を知った。
すると、―線②の直後に「何も気づいていなかった、何も見えていなかった己を知った」という後悔の心情が表れている。「私」が気づけなくて後悔している咲桜莉の気持ちを記述すればよいことを押さえておきましょう。
咲桜莉の気持ちを読みとる
では、「私」が咲桜莉のどのような気持ちに気付けなかったのか、読みとっていきましょう。
そのために、―線②の直前の、咲桜莉のセリフに注目しましょう。
〈咲桜莉のセリフ〉
「選ばれなかったことは、今は納得してる。それでも、同じ一年生のあの子とすれ違って、やりきったって笑顔で買い物しているのを見たら、 気がついたんだよね。私も走りたかったな―、って」
咲桜莉のセリフから、走りたかったのに走れなかったことを悔しく思う気持ちが良みとれる。
問題文で「どのような気持ちか答えなさい」と問われているので、記述の文末は「悔しく思う気持ち」とまとめるようにしましょう。
記述を完成させる
記述の文末を『悔しく思う気持ち』とまとめれば良いことをおさえたので、その前半につけ足す文を考えましょう。今回は、咲桜莉が悔しがっていた理由をつけ足すことで、記述を完成させましょう。
咲桜莉が悔しい気持ちは、冒頭のセリフからわかります。
〈咲桜莉の悔しい気持ちの理由がわかるセリフ〉
「私も仙那キャプテンに呼ばれて、食堂で走者変更のことを聞かされたんた。キャプテンから咲 桜莉のほうがタイムはいいけど、先生や心弓センハイと相談してサカトゥーに決めた、って言われた。どうして、って思ったけど、何も言わな かった。・・・」
このセリフから、咲桜莉のほうがタイムがいいのに選ばれなかったことを疑問に思っている気持ちが読みとれます。それが、選ばれなかった悔しさにつながっていると考えられるので、セリフをヒントに記述をまとめましょう。
【解答例】
咲桜莉のほうがタイムがいいのに坂東が選手に選ばれず悔しく思う気持ち(33文字)
[問6]記述問題 ―⑥「ぼっと間違いなく種火が宿った」とは、「私」についてどのようなことを述べていますか。
【比喩表現】「種火が宿った」に注目しよう
「種火が宿った」というのは、心情を表す比喩表現なので、とても重要です。このような表現には確実に線を引いて、注意深く読みとるようにしましょう。
また、この問題の問いの中心は、「私についてどのようなことを述べていますか」という部分なので、この比喩表現の心情を解釈して解答する問題です。
■「種火」とは何か確認する
比喩表現は、言葉のイメージをつかませていくことが重要です。
そこで、「種火ってなにかわかる?」と子どもに確認してみましょう。キャンプファイヤーやバーベキューを例に挙げ、炎は最初から燃え上がっているわけではなく、小さな種火からスタートしていることを確認しましょう。
比喩表現のイメージをつかませるために、子どもの経験と結びつけて理解させることが重要です。
■「種火が宿る」とは、どのような心情かおさえる
では、「私」に「種火が宿る」とは、どのような心情を表しているのでしょうか。これも、子どもと話しながら「心に火がついた」状態であることを確認しましょう。
では、「心に火がついた」とは、どのような心情なのでしょうか。「前向きに挑戦する気持ち」「やる気」「またがんばろうと決意する気持ち」というように、比喩表現が表す心情をおさえましょう。
つまり、この問題は「(私が)前向きに挑戦する気持ちが生まれてきたこと」と解答すればよいということになります。
【心情変化】「私」の心情がどのように変化したのか考えよう
「種火が宿る」というプラス心情について確認しましたが、「私」はそれ以前はマイナス心情でした。この場面は、心情が変化した重要な場面です。どのように心情が変化したのか、おさえていきましょう。
■冒頭の自己嫌悪を感じていた場面
主人公は走り終えた後、咲桜莉と話をしている際に、彼女の本心に気づかなかった自分への自己嫌悪を感じます。咲桜莉が、本当は走りたかったのに自分を励ましてくれたことを知り、自分が「ひとりで走ったんじゃない」と気づくのです。
■前向きな気持ちへと心情が変化する場面
物語の最後で、対戦相手である荒垣さんと会話を交わす中で「また来年、ここにきて、咲桜莉と一緒に都大路を走るんだ」と励まされます。咲桜莉の本当の気持ちに気付けなかったことを後悔していた「私」ですが、この言葉を受けて、咲桜莉と共に前向きな気持ちで再び挑戦しようと決意します。
今回は、「私」が前向きに挑戦する気持ちになったきっかけである荒垣さんのセリフの内容をまとめると、うまく解答できそうです。字数以内にまとめていきましょう。
【解答例】
荒垣さんに来年咲桜莉と共に都大路を走るべきだと言われ、前向きに挑戦する気持ちがうまれてきたこと。(48字)
[問7]~線部ア~オを出来事が起こった順に並びかえなさい。
■並びかえ問題の解答の手順
この問題は~線部を時系列にならべるという問題です。並びかえ問題は、何から手を付けてよいかわからず、困ってしまうことが多いです。解答の手順を覚え、解き方を明確にすることが大切です。
並びかえ問題の解答の手順
①先頭・末尾の選択肢から決めていく。 ②選択肢同士のペアをつくる。
まず、先頭と末尾の選択肢から考えていきましょう。そして、関連性の強い選択肢をペアにしていきます。そうすることで、順番を決められるところから決定させていきます。並びかえ問題でも解き方の手順を覚えて、思考のとっかかりをつくっていくことが重要です。
■現在と過去の場面に分ける
今回の問題は、~線部が現在(買い物をしている時)の場面と、過去のことを表している場面に分けることができます。
[現在]・~イ「己を知った」 ・~ウ「それから、ひとつ頬張った」
[過去]・~ア「あんなお世辞言ってくれたの?」 ・~エ「スタジアムの手前…(略)」 ・~オ「中継所で、ものすごい勢いで…(略)」
このように整理すると現在の時系列は、~イ(咲桜莉の本心を知った場面)→~ウ(咲桜莉と別れて唐揚げを食べている場面)と決めることができる。
続いて、過去の時系列を確認していきましょう。
・~ア → 主人公が「あんなお世辞」と感じたのは、試合の前日
・~エ → 主人公が4人抜きしたのは試合中
・~オ → 荒垣さんが、主人公がにらみつけてきたと感じたのは、試合の直前
このように確認していくと、~ア → ~オ → ~エ という時系列になることがわかります。
つまり、正答はア→オ→エ→イ→ウということになります。
[問8]選択問題 本文についての説明として適当なものを、2つ選びなさい。
物語文の最終問題は、本文全体から正しい選択肢を選ぶ問題です。本文の内容と照らし合わせながら解答していきましょう。
選択肢のまちがっている部分を見つける
選択問題の基本は、選択肢のまちがっている部分を見つけることです。まちがっている部分は、以下のようになります。
(ア)
✕複数の高校生の視点で
→坂東(私)の視点で描かれている物語であるためまちがい。
(ウ)
✕「私」と咲桜莉の関係を心配するあまり厳しい言葉を用いて助言する荒垣さん
→荒垣さんは「私」と咲桜莉の関係についてではなく、「私」自身の成長や前向きな挑戦を促すために助言しているのでまちがい。
(エ)
✕「私」がライバルである荒垣さんに意識をむけることで、前向きになっていく
→荒垣さんに意識をむけることで前向きになれたのではなく、荒垣さんの言葉で前向きになることができたのでまちがい。
[問6]で触れた、主人公の心情変化の場面が正しく読みとれていれば、(ウ)と(エ)がまちがいであることに気づくことができます。もう一度確認しておきましょう。
正答の理由を考える
選択肢のまちがいを見つけると、(イ)と(オ)が正答であると判断できますが、なぜ正答なのか判断できると、より確実に解答することができます。
(イ)咲桜莉と「私」のやりとりや行動からは、二人が互いに相手のことを認め、大切に思い合っていることが読み取れる。
(イ)が正答であると判断できる理由
・咲桜莉が「私」に対して「走り方が好きだ」と告白しているから。
・咲桜莉が「私」の走りを直接応援したかったと述べているから。
・「私」も咲桜莉の励ましによって走る勇気を得て、彼女の存在を大切に思う描写があるから。
(オ)別れの場面では、言葉だけでなく表情や行動からも、「私」と荒垣さんの関係が以前とは変化したことが示されている。
(オ)が正答であると判断できる理由
・荒垣さんが少し照れたように「ありがとう」と言う場面があるから。
・「私」と荒垣さんが互いに言葉を交わすだけでなく、視線を交わし、最後に拳を軽く合わせるという行動をしているから。
主人公と咲桜莉、主人公と荒垣さん、それぞれの関係を丁寧におさえていくことが大切です。物語文を読むときは、人物同士の関係をおさえながら、読みとっていけるよう意識していきましょう。
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