【2024年度入試問題】神奈川御三家・浅野中学校 国語の物語文[大問2]を解説

今回は浅野中学校の2024年度入試問題を解説します。
横浜の街や港を一望できる丘の上にある学校です。1学年約270人の、完全中高一貫校の男子校です。東大をはじめとする難関大学合格者を、多く輩出する進学校です。海城中学校は、1920年、”京浜工業地帯の父”と呼ばれた実業家・浅野總一郎により「浅野綜合中学校」として設立。1951年、現在の校名になりました。

2024年度の物語文は文芸誌「MONKEY」から『うつろいの秋』(西川美和)が出題されました。
戦時中の家族の葛藤が描かれた物語で、子どもたちにとって読み解くことが困難です。時代背景など、詳しく解説していく必要があります。

文章の概要

あらすじ

戦争が激しくなる中、琴子が通う学校で集団疎開が決まりました。琴子は友人のユキちゃんと疎開について話し合いますが、ユキちゃんは疎開に反対です。琴子は疎開に行くと決意しますが、父親は反対しています。最終的に父親はしぶしぶ承諾し、琴子は疎開することになります。戦時中の家族の葛藤と疎開の決断が描かれています。

登場人物とその特徴

  • 琴子:主人公。戦時中の疎開に悩みつつも、自分の意志を貫こうとする強い意志を持つ少女。
  • ユキちゃん:琴子の友人。疎開に反対し、不安や恐れを抱えている。
  • 琴子の父:音楽家。疎開に反対するも、最終的には娘の安全を考えて決断する。

難しい言葉の解説

  • 集団疎開(しゅうだんそかい):戦争中に都会の人々を地方に避難させること。第二次世界大戦中、日本では空襲の被害を避けるために、多くの子供たちが都会から地方に疎開しました。疎開は家族と離れることを意味し、多くの子供たちにとっては大きな不安と恐怖を伴いました。
  • もんぺ:日本の伝統的なズボン。
  • 大東和共栄圏(だいとうわきょうえいけん):日本が提唱したアジアの共存共栄の概念。
  • 非国民(ひこくみん):国に対して忠誠を示さない人
  • 疎開戦士(そかいせんし): 疎開を通じて後方支援を行うことで戦争に貢献する子供たちを指します。琴子はこの言葉を使い、自分が疎開地で戦争に貢献するという意識を持とうとしています。
  • 共倒れ(ともだおれ): 互いに助け合うことで、結局全員が破滅すること。
  • 非国民(ひこくみん): 愛国心がない、または国に反抗的な行動をとる人を蔑む言葉。
  • 縁故(えんこ): 血縁や地縁などの関係を利用して人や物事を頼ることを指します。疎開の際には、地方に親戚がいる場合、その縁故を頼って避難することがありました。
  • 敵性音楽(てきせいおんがく): 戦時中に敵国とみなされる国(この場合はアメリカやイギリス)の音楽を指します。戦時中は敵国文化の影響を排除するため、敵性音楽の演奏や放送が禁止されました。
  • 渇望(かつぼう): 強く望むこと、非常に欲しがることを意味します。この文脈では、琴子が「もっと激しい感動」を求める強い欲求を示しています。
  • 軍歌(ぐんか): 軍隊の士気を高めるために作られた歌を指します。戦時中、日本では多くの軍歌が作られ、国民の戦意を高めるために広く歌われました。

父と琴子の相反する心情

琴子と父親は、戦時中の価値観や行動方針について対立しています。しかし、お互いに対する深い愛情があります。中学受験で出題される問題には、このような相反する心情が出題されることが多いです。このような複雑な心情は子どもが理解しづらい心情なので、丁寧な解説が必要です。

■琴子の愛情
琴子は、父親との対立を通じて自分の意見を主張し、疎開を決意します。しかし、父親や家族への深い愛情があります。物語の最後で、琴子は自身の望通り疎開することができますが、疎開地に向かう汽車で「父に捨てられたような」気持ちになっています。対立しながらも、心の奥では父の愛情を感じ取っており、琴子自身も父を愛していたことがわかります。

■父の愛情
父親もまた、琴子に対する深い愛情を示しています。琴子のことを大切に思っていたからこそ、琴子が「お国のために死ねる」と言った時に、強い怒りを表しました。琴子の疎開を決断する時にも、琴子にとってどの選択が最善なのか思い悩んでいる様子が描かれており、そこからも深い愛情が読みとれます。

重要問題解説 [問3]~[問6]

今回、特に解答が困難だったのが父親の心情を問われた問題です。戦時中の娘をもつ父親の心情を、小学生が理解するのは、簡単なことではありません。今回は、父親の心情を問われた[問3]~[問6]を解説します。

[問3]記述問題 —線部②「低く絞り出す父の声には、私の体を切り裂いても足らぬほどの怒りがにじんでいるように思えた」とありますが、このときに「父」はどのようなことに対して「怒り」を覚えていますか。

父の怒りの表現に注目する

まずは、―線部②の父の怒りの表現に注目してみましょう。

「低く絞り出す父の声」 → 父の声が低く、絞り出すような声であることから、父の感情が極限まで抑えられていることがわかります。普通の声ではなく、怒りを抑えきれずに低く押し殺すような声です。冷静を装っているものの、強い感情が隠されていることが示されています。

「私の体を切り裂いても足らぬほどの怒り」 → これは、父の怒りがどれほど深く、激しいものであるかを表す比喩表現です。普通の怒りではなく、琴子の体を切り裂くほどの強烈な怒りが滲み出ていると感じられます。

「にじんでいるように思えた」 → この表現によって、琴子が父の声を通じてその怒りを感じ取っている様子が描かれています。父の声そのものから怒りが滲み出ているように琴子が感じたということであり、父の内心の激しい感情が声を通して伝わってきたことがわかります。

これほどまでの父の強い怒りを感じた原因を、読みとっていく必要があります。

父の怒りの原因を読みとる

父の怒りの原因が、直前の琴子の発言であることは明らかです。

父が怒りを感じた琴子の発言
「あたしだって、何かの役に立ちたいんです。男の子に産んでくれてれば、兵隊になれたのに。お国のために立派に死ねるのに」

つまり、父は「お国のために死ねる」と言った琴子の発言に怒りを感じており、
「命を捨ててもよい」という発言をしていることが「裏切りだ」と思っているのです。


【相反する感情に要注意!!】
父は怒っていますが、琴子に対する深い愛情があります。愛情があるからこそ、琴子の発言が許せなかったのです。父の怒りの心情の裏に、琴子への愛情の大きさが読みとれる場面となっています。

このような相反する心情は、中学受験頻出の問題です。「好き」だから「冷たく」する。「仲直りしたい」けど「避けてしまう」など。このような複雑な心情を、子どもが理解できているかよく問われます。

この場面の心情を理解させていくために「大切な人が死にたいと言ったらどんな気持ちになるかな」などと問いかけ、確認していきましょう。

お子さんがリアルに想像できるよう、語りかけてあげてください。

琴子の発言に怒りを感じた理由を説明する

琴子の「死ねる」という発言に怒りを感じたことをおさえていきましたが、
これだけでは字数が足りません。
ここでは、父が琴子の発言に怒りを感じた理由を説明すると、うまく記述できそうです。

[父が怒りを感じている理由] → 彼女が戦争で死ぬことを理想化し、自分の命や役割を軽んじていると感じたからです。また、家族の愛情をないがしろにするような発言をしたことも怒りの原因です。

このように、父は娘のことを大切に思っているのに、その娘が命を軽んじているような発言をしたことに、憤りを感じていると読みとることができます。

まとめると、以下のような文章になります。

【解答例】
とても愛していて大切に思っている娘が「お国のために死ねる」という、命をすてるようなことを言ってしまったこと。(54字)


[問4]選択問題 ―線部③「父は、負けたのだ」とありますが、このときの「父」の「負け」とはどういうこと ですか。

「父は、負けたのだ」という表現は、父が自分の意志ではなく、外部の圧力に屈したことを意味しています。それをふまえた上で、解答していきましょう。

選択肢のまちがいを見つける

選択問題の基本は、まちがっている部分を見つけることです。まずは、どの部分が不適切であるか考えていきましょう。

(イ)
✕正当性にあくまでこだわり
→「正当性」に固執していたというよりも、疎開が本当に琴子のためになるのかということに疑問を抱いていた。

✕曽根先生の発言に降参した
→「降参」したというよりも、社会の圧力に負けて疎開を認めざるを得なかった。

(ウ)
✕落ち着きのない表情をした曽根先生の立場を心配し
→父が持論を取り下げた理由は、曽根先生の「落ち着きのない表情」ではなく、社会的な圧力や「愛情のしるし」という言葉が決定的な影響を与えたため。

(エ)
✕娘の将来を真面目に考えた結果として
→父は娘にとって何が最善か真剣に考えていたことが読みとれる。「娘の将来を真面目に考えた結果」として自らの意志で考えを改めたわけではない

(ア)が正答である理由

このようにまちがいを見つけていくと、正答は(ア)であるとわかります。
(ア)が正答である理由も考えていきましょう。

(ア)親として子どもを手放す気がなく、都内で同居し続けようとしたのに、子どものためには集団疎開を認めるべきという主流の意見を受け容れざるをえなかったこと。

理由は、父はもともと琴子と都内で同居することを望んでいたが、結局は周囲の圧力や琴子のために集団疎開を認める決断をしたという内容が読みとれるためです。

[問5]選択問題 ―線部④「浮薄な蝶」とありますが、その具体的な説明としてもっとも適切なものを選択しなさい。

比喩表現「浮薄な蝶」について

■「浮薄な蝶」をイメージしてみよう
「浮薄な蝶」という比喩表現が理解できていなければいけません。
まずは「浮薄」という漢字から類推することが大切です。

浮薄 → 薄いものが浮いている状態をイメージ。頼りなく、弱々しいイメージを思い浮かべることができればOKです。


「蝶」は美しい存在ですが、風に流されやすく、地に足がついていない印象を与えます。「浮薄な」という言葉がついていることで、流されやすく弱々しい印象が、さらに強調されています。

作者は物語中の重要な内容を比喩で表します。比喩表現がでてきたら、その意味を注意深く読みとりましょう。

■父と「浮薄な蝶」との関係をおさえよう
琴子の父親が時代に抗えず、「浮薄な蝶」となってしまった原因は、以下の文から読みとれます。

抗うことの煩わしさに背を向けた
父親は、戦時体制に対して反発することを避け、自分の信念を貫くことを諦めています。これは、戦時中の困難な状況に対して立ち向かう意志がなく、現実に流されている姿勢を示しています。

大きな流れのさまたげになることなどできないと思い込んでいた
父親は、自分が戦時体制に反発しても無力であると感じており、時代の流れに逆らうことを諦めています。ここでは、自分の力不足や無力感が強調されています。

さまたげて抗うには、あまりに軽すぎる
父親は、自分の行動が軽く、戦時体制に対して抗う力がないと自覚しています。この「軽さ」が、「浮薄な蝶」の軽薄さに通じています。

琴子の父親は、戦時体制に適応するために自分の理想を諦めました。戦時中の現実に流されて、自分の信念を妥協する様子が「浮薄な蝶」にたとえられています。

選択肢のまちがいを見つける

「浮薄な蝶」について考えたところで、選択肢のまちがいに注目してみましょう。

(ア)
✕自分が美しいと信じる曲を作ることは早々にやめ
→自分の理想とする音楽とのギャップに思い悩んでいたことが読みとれるので不適切

(イ)
芸術性の高い曲を作ることしか関心を持たず、 世間の人たちに支持されるような作曲活動に背を向ける
→父は芸術性の高い曲を作ることを理想としていますが、現実には妥協して軍歌の作曲を行っているので不適切

(エ)
✕戦時下でも豊かな生活を求めると同時に
→(P5・17行目~)「収入が必要だったわけではなく、社会の流れに抗うことに背を向けた」という内容の記述があるので不適切

(ウ)が正答である理由

以上のように考えると、(ウ)が正答です。

(ウ)音楽家としての生き方を譲らず軍歌であっても自分の望む出来を追求していた父が、戦争のための曲が求められていく時代に流されて、作曲を通じた音楽の理想の実現をあきらめて現状を 容認してしまう様子を皮肉っている。

「戦争のための曲が求められていく時代に流されて」「現状を容認してしまう様子を皮肉っている」という記述が、父親が時流に流され、自分の理想を追求することを諦めた様子を示しています。

[問6]選択問題 ―線部⑤「しかしまあ、よく飽きもせずに練習するね」とありますが、このときの「父」についての説明としてもっとも適切なものを選択しなさい。

―線部の父の心情

―線部では、兄がバイオリンを練習する姿を、父は肯定的に捉えている場面だと読みとれます。

兄がバイオリンを練習していた理由は、父親への配慮です。
兄は、父親の帰宅時にさりげなくラジオを消し、バイオリンの練習を始めます。これは、父親が戦時中の軍歌の作曲に従事しながらも、内心ではそれに葛藤を抱いていることを理解しているからです。そんな父を少しでも元気づけようとして行った行動です。

そんな兄の行動に、「父は苦笑いしながら着替えを済ませ、幸福そうに今の揺り椅子に身を沈めて」います。(―線部⑤の直後の文)ここから、父はプラス心情であったことが読みとれます。

選択肢のまちがいを見つける

―線部の父の心情をおさえた上で、選択肢のまちがいに注目してみましょう。

(イ)
✕軍歌そのものの演奏技術の向上に努める息子
→息子が軍歌の演奏技術の向上に努めているという記述は本文にないので不適切

(ウ)
✕人々が熱狂する軍歌などにはわき目もふらず専門性の高い曲の練習にひたすら打ち込む息子
→先ほど解説した通り、兄は父への配慮からバイオリンを演奏していたため不適切

(エ)
✕(娘と息子の)それぞれの立場で音楽を愛している状態に対して幸福感を覚えている
→父親の感情は息子に対する共感や評価に重きを置いているため不適切

(ア)が正答である理由

以上のように考えると(ア)が正答であるとわかります。

(ア)戦時下の音楽をとりまく状況をよしとしていなかった父は、時局に合わない曲を演奏する息子に対して表面上はあきれた風をよそおいつつも、音楽の美しさを追い求める姿勢に実は共感を覚えている。

父親が戦時下の状況を良しとしていないことを示しており、息子の音楽への姿勢に共感していることを表しています。文脈から考えて、父親が息子の音楽の美しさを追い求める姿勢に共感している可能性が高いので、この選択肢が適切であると言えます。

【2024年度】浅野中学校 物語文解説まとめ

今回は浅野中学校の物語文の解説をまとめました。
父と娘は対立していましたが、心の奥底ではお互いを思い合っていることが読みとれます。このような登場人物の相反する感情を描くことで、家族愛をテーマにしている作品であるということがわかります。
また、「浮薄な蝶」などの比喩表現も重要なポイントです。比喩表現には必ず線を引き、その意味を考えることを習慣化していきましょう。

このように、時代背景やテーマが、小学生にはわかりづらい作品ですので、丁寧に解説していく必要がありますね。


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