海城中学校の2024年度入試問題を解説します。
海城中学校は、1891年(明治24年)に、海軍兵学校入学を目指す予備校として創立されました。現在は、高い知性と豊かな情操を持つ理想的な人物の育成に取り組んでいる学校です。
2024年度の物語文は『墨のゆらめき』(著:三浦しをん)
実直なホテルマンである主人公が、奔放な書家・遠田と出会う物語です。
海城中は毎回、記号選択が多く選択肢が長い!さらに間違いがとても微妙なので、丁寧に読んでいくことが求められます!しかも、問題数が多いので解答するスピードが求められます。
物語文[大問1]は全12問。すべて解説していきます!
【2024】海城中学校・国語の物語文 全12問解説
(問1)選択問題 書道教室の女の子が笑った理由
書道教室の女の子が、主人公を見てくすくす笑った理由が問われています。
全文を先に読んでいると、子どもたちが安心してのびのびと書道を楽しんでいる様子や子どもが指導者の遠田を信頼している様子が読みとれます。子どもたちの「前向きな雰囲気」を頭に入れつつ、選択肢のまちがいを見つけていけば正答にたどりつけます。
(ア) … ✕笑ってはいけないと思いつつも
→笑いを我慢しているような記述はないので✕
(ウ) … ✕「俺」に反感を持ち、あざけるような笑い方で
→「ふいの闖入者にテンションがあがっているのだとうとは思ったが」という記述があるので、「反感を持つ」という部分はまちがい
(エ) … ✕書道に気が乗らないこともあって
→書道教室を楽しんでいる様子が読みとれるため、まちがい
このように考えていくと、正答は(イ)「俺」が突然現れたことに興味がわいてきて気持ちがたかぶりという部分が最もふさわしいと判断することができます。
(問2)選択問題 遠田のかたわらに正座した主人公の心情
「遠慮がちに遠田のかたわらに正座した」時の「俺」の気持ちを考えましょう。
(P2・1行目~)生徒たちに俺をしょうかいする気はないらしい。突っ立っていてもしょうがないので… と本文にあるので、遠田から紹介もされずどのように行動すべきか戸惑っている主人公の様子が読みとれます。
選択肢のまちがっている部分を見つけていくと、(イ)と(エ)は誤答であることはすぐわかります。
(イ) … ✕遠田からも生徒たちからも突然の訪問を歓迎されてないように感じられ
→「訪問を歓迎されていない」ということが本文から読みとれないため✕
(エ) … ✕生徒たちの不真面目な様子に困惑した
→「俺」の突然の訪問で生徒たちから笑いが起きていた場面はあったが、不真面目な様子であるわけではないので✕
(ア)と(ウ)で迷った人もいるかもしれません。迷った場合は、選択肢の記述をくらべます。
すると、
(ア)の「早く素性を明かしたい」「自分に対して自信がない」とは本文に書かれていないので、(ウ)が正答であると選ぶことができます。
(問3)選択問題 「にぎやかな書道教室」を見た主人公の心情
遠田と子どもたちのやりとりを見て、主人公は「書道教室とはこんなににぎやかでいいものなのだろうか」と思っています。この問題でも、選択肢のまちがいを見つけましょう。
(イ) … ✕失礼な言動を繰り返す生徒たちを指導者が注意せず
→指導者である遠田も生徒と同じように話しているので、注意をしないことがおかしいと思っているわけではない。
(ウ) … ✕自分の並外れた才能をみせつけようとしている
→そのように読みとれる記述はないため誤答。
(エ) … ✕生徒たちが書くことに集中せずに余計なことばかりしている上に
→「へのへのもへじ」を書いた子も一人いたが余計なことばかりしているは言い過ぎ。
主人公は生徒よりも、指導者・遠田の様子に違和感をもっていると読みとれるため、(ア)が正答であると言えます。
(問4)選択問題 主人公が「冒瀆」だと感じている点
主人公が冒瀆だと感じている点が書かれている選択肢を選びます。
まず、(ウ)と(エ)は消去法で消すことができます。
(ウ) … ✕書を軽んじている思いを隠そうともせずに
→この記述では「遠田は書を軽んじている」ということになるが、後に書道の大切な心構えを指導して場面があり、決して軽んじているわけではないのでまちがい。
(エ) … ✕生徒が汚い言葉で悪態をつく
→下品な言葉をつかっているのは遠田であり、主人公は遠田の発言を「書への冒瀆」と感じているのでまちがい。
(ア)と(イ)から正答を選ぶために、2つの選択肢の後半部分をくらべてみましょう。
(ア)書道の格式の高さを教えようをしない点
(イ)ことさらに品のない言葉でたとえて悪びれもしない点
「書の格式の高さを教えていない」ことよりも「品のない言葉でたとえている」ことに主人公は違和感をもっているため、(イ)が正答であると言えます。
(問5)選択問題 「風は風だよね」と言った子どもの心情
「どういう風」と聞かれて「風は風だよね」と言った時の子どもの心情が問われています。―線部の直後に困惑の囁きが交わされるという記述があるので、子どもたちは困惑しているとわかります。
そこで、(ア)と(イ)は下記の部分がまちがいであると判断できます。
(ア) … ✕初めから遠田の言うことなどまじめに聞く気持ちはなく
(イ) … ✕わけのわからないことばかり言う遠田のことを困った人だという目で見ている
では、どちらも困惑の心情が書かれている(ウ)と(エ)の選択肢をくらべてみましょう。
子どもたちは
(ウ)どう答えてよいかわからずとまどっているのか、
(エ)どう字に表したらよいのかわからなくてとまどっているのか
このようにくらべてみると、子どもたちは遠田に聞かれたことにどう答えてよいかわからず困惑しており、(エ)の字に表すところまでは考えていないので、
(ウ)が適当であると判断できます。
(問6)記述問題 問題場面を理解たうえで記述しよう
■問題場面を子どもが的確にとらえられているか
遠田がどのような指導をし、子どもたちはその指導を受けてどのような字を書いたのか、
正確に理解することができているでしょうか?
問題場面を子どもが理解できているか質問してみましょう。
遠田はいきなり掃き出し窓を開けたんだよね。真夏に涼しい部屋にいる時、いきなり窓を開けたら、どんな風が入ってくる?
ぬるくて、もわっとしたような風が入ってくると思います。
そうだね。そんな「風」を、文字に表すとしたらどう書く?
ぼくは、太い線で大きめに書くと思います。
太く書いたほうが、ぬるい感じがでそうだね。勢いよく書いた方が良さそうかな?
このようにやりとりしながら、子どもが読みとれているか確認します。
子どもの読みとりに不十分なところがあると感じたら修正してあげることが大切です。正しい読み方を教えるのではなく、「○○だと思うよ」と、読み方をすり合わせていくイメージで伝えていきましょう。
このように問題場面を確認した上で、
「そういう習慣」を明確にさせながら、真夏にも冬の『風』が書けるようになるとはどういう意味か考えていきましょう。
■結論を短い文でまとめる。
問題場面を確認した上で、結論を短い文でまとめます。
今回解答すべきことは
●「そういう習慣」とは何か答える
●「真夏にも冬の『風』が書けるようになる」とはどういうことか答える
という2点です。
答えになる文章を本文から探していきましょう。
(P3・最終行~)大事なのは文字の奥にあるもんを想像することだ
(P4・2行目)文字を通して自分が伝えたいことはなにかを考えるんだ
(P4・20行目)〈遠田が子どもたちに風を浴びせてから〉いま感じたことを思い浮かべながら、もう一度『風』って書いてみな
このような遠田のセリフから、遠田は文字の奥にあるものを想像し、相手に伝えられるようになってほしいと考えていることがわかる。
よって、
●そういう習慣 → 文字の奥にあるものを想像する習慣
●真夏にも冬の『風』が書けるようになる → いつでも文字を通して思いを伝えられるようになる
つまり、結論となる短い文は以下のようになります。
文字の奥にあるものを想像する習慣があれば、いつでも文字を通して思いを伝えられるようになるということ。(51字)
■短い解答に、文を”トッピング”して記述を完成させる。
この問題は60字以上80字以内なので、上記の文では字数が足りないので、つけ足していきます。
記述問題では、短い解答にどのような文を”トッピング”するかが、とても重要になります。
トッピングする文は、以下の3つの内のどれかを状況に応じて選択するようにしましょう。
①対比 → 2つのものを比較する書き方です。「○○だったが」
②原因 → (記述の核)の原因を記述します。「○○だから」
③説明 → (記述の核)を詳しくする文をつけ足します。「○○なほど」「○○くらい」
3つのどれを”トッピング”するか判断するには、訓練が必要です。記述問題の解説の際には、意識するようにしていきましょう。
今回は②原因となる文をトッピングしました。
文字の奥にあるものを想像する習慣がついていれば、日ごろから書に表すための感性が磨かれていくため、文字を通して思いを伝えることができるようになるということ。(77字)
青字で書いた日ごろから書に表すための感性が磨かれていくためという文が、原因を説明する文です。このように、記述問題では、どのような文をつけ足すか判断する練習をしていきましょう。
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