市川中学校の2024年度入試問題を解説します。
市川中学校は1937年(昭和12年)に開校された歴史ある学校で、創立以来、「独自無双の人間観」「よく見れば精神」「第三教育」の教育理念を掲げています。これは、自由主義的な校風を念頭に置いたものです。
物語文は『流人道中記』(著:浅田次郎)
物語の舞台となっているのは江戸時代。
万延元年(1860年)に無実の罪をきせられ切腹を言い渡された青山玄蕃。しかし「痛えから嫌だ」と拒み、蝦夷へ流罪となりました。ろくでなしであるはずの玄蕃の、弱き者を決して見捨てぬ心意気が描かれています。
歴史・時代小説は、小学生のお子さんにとって非常に読解が困難です。
時代背景や、その時代独特の表現。登場人物の名前や役職名。
読み進めていく上でのハードルが多く、心が折れてしまうお子さんも多いのではないでしょうか。
大切なことは「理解できない言葉があっても、解答できるように問題がつくられている」ということです。脚注などを手がかりに登場人物の言動を整理すれば、解答できるようになっています。
答えられない問題は出題されません。あせらず、丁寧に読み取っていきましょう。
【読解困難】時代小説の読み方を解説
登場人物をおさえる
まずは、時代小説の登場人物をはっきりさせなければ、読解などできません。
前文を読むと3人の登場人物が記載されています。
・青山玄蕃(文中では「俺」)
・石川乙次郎(文中では「僕」)
・大出対馬守 → 玄蕃の上司で罪を押しつけた人物
昔の人物の名前なので、これだけでも抵抗を感じてしまいますが・・・
文章中の人物が誰のことを指しているのか、書きこみながら読んでいくと、大筋のストーリーが見えてきます。
まずは(1)だれの視点で書かれた物語であるのか押さえる必要があります。
ここで脚注がヒントになります。
※破廉恥(はれんち) → 恥しらず。ここでは玄蕃が罪を犯したことと、切腹を拒んだことを指す。
と書かれているため、破廉恥な侍とは、玄蕃のことを指しています。
※道中~襤褸(ぼろ)がでてしもうた。 → 玄蕃が人々を救うのを、乙次郎に見られたことを指す。
からも、玄蕃の視点で書かれていることがわかります。
続いて(2)おぬしが誰のことを指しているのか考えます。
先ほど玄蕃の視点で書かれていることを押さえたので、(2)おぬしは乙次郎を指しています。
問題文に「俺」は玄蕃を指していると書いてあるので、(3)は玄蕃。
脚注を確認すると、「※敵」「※糞」は大出を指していると分かります。
本文に[玄][乙]などと書きこみながら、登場人物を押さえていきましょう。
物語の時代背景や独特の表現を押さえよう
■時代背景
時代背景など、子どもたちが知っておかなければ読解が困難になる情報を、補足しておきましょう。
もともと戦で手柄をあげて領地を獲得していた武士ですが、江戸時代の安定した世の中で、多くの武士が幕府や藩の役職について仕事をするようになります。
武士が、今で言う公務員のような仕事をしていたことになりますね。
それでも、旧来の武士の価値観が変革されないことに疑問をもつ玄蕃の考えが、本文中にも出てきていますね。
本文P14後半~の内容を確認する際に、時代背景についても補足していきましょう。
物語の舞台となったのは万延元年(1860)・桜田門外の変が起こった年です。
ペリー来航(1854)があり日米修好通商条約(1856)が結ばれ、幕府の体制を維持しようとする政府と、そのような政府に対する反発する勢力とがぶつかっていた時代です。
そのような時代の中で、旧来の武士の在り方に疑問をもつ人々が現れた時代です。
■時代独特の表現や重要語句
時代背景と同様、その時代独特の表現も押さえておきましょう。
●(P14・1行目)二百幾十里 … 1里は約4km。
●(P14・3行目)得心ゆく … 十分納得する。気持ちがおさまる。
●(P14・5行目)非道 … 道理・人の道にはずれていること。
●(P14・5行目)義 … 武士が大切にしていた価値観。正義。忠義。
●(P14・6行目)討ち入る … 敵の陣内に乗りこんで攻撃すること。忠臣蔵が有名。
●(P14・6行目)腹切って死ぬ … 切腹。責任をとるため自分の腹を切る武士独自の風習。
●(P14・13行目)権現様 … 徳川家康を敬って言う語。
●(P15・2行目)大小の二本差し … 江戸時代、武士は長さが違う2振の日本刀を腰に差していた。『大』は「打刀」で、『小』は「脇差」。『大小』『二本差』だけで表されることもある。
●(P17・9行目)彼岸 … ここでは「向こう岸」という意味。転じて、ご先祖様のいる世界を『彼岸』といいます。春分の日や秋分の日を中日とする「お彼岸」には、お墓参りに行きますね。
●(P18・1行目)存外 … 想像していた以上に。思いのほか。
●(P18・18行目)踵(きびす)を返す … 後戻りをする。引き返す。踵(きびす)とは、「かかと」のこと。
●(P18・19行目)餞(はなむけ) … 旅に出る人などに贈る、品物・金銭や詩歌など。餞別(せんべつ)。
●(P18・19行目)帳(とばり) … 室内に垂れ下げて、隔てにする布。たれぎぬ。「霧の帳」で、霧が立ち込めて幕のようになっている様子を表します。
時間はかかりますが、これらの言葉を補足しながら読み進めていくことが重要です。
これらの時代背景や登場人物などを押さえながら読み進めていくと、選択問題はそれほど難易度の高いものではありません。
難しい言葉にあせらず、一つ一つの言葉を確認しながら読み進めていくことが大切です。
[問3]玄蕃がどのような人物だと思っているのか記述しよう
【問いの中心】に対する短い解答をつくる
■【問いの中心】の確認
[問3]の【問いの中心】は「乙次郎は玄蕃をどのような人物だと思っていますか」と問われている部分です。
そこで、「○○な人物」と解答すればよいことを確認します。
玄蕃のセリフを聞いて、乙次郎が玄蕃のことを「○○な人物」だと思ったと解答する問題であることを押さえます。
【問いの中心】を確認して、文末の答え方を間違えないようにしましょう。
■文末の短い解答をつくる
「○○な人物」の「○○」に入る言葉を考えます。
この問いは、乙次郎がどのような人物だと思ったのか聞かれているので、乙次郎の心情を押さえます。
―線3の玄蕃のセリフを聞いて、直後に「僕(乙次郎)は心打たれた」と書かれているので、乙次郎はプラス心情であることがわかります。
なぜ、プラス心情なのかというと、直後の文に
(P17・3行目)その気構えがあったればこそ、武士は権威なのだ。
とあるので、玄蕃のセリフを聞いて、本当の武士としての気構えを持っている人物であると思っています。文末はこのように解答すればよいことを、まずは確認しておきましょう。
記述問題は【問いの中心】に答える、できるだけ短い解答をつくるところからはじめましょう。
根拠を付けたし、記述を完成させる
文末の解答が完成したら、その解答に根拠を付けたしていきます。
乙次郎は、道中で玄蕃が事情を抱えた人々を救う姿を見ています。
その上で「おのれに近き者から目をかけるのはあやまりぞ。・・・。」というセリフに心を打たれています。
つまり、周囲の人たちのことを思いやる玄蕃の姿勢に、武士として本物の気構えを感じていると考えられます。
「自分や自分と近しい人よりも、周囲の人たちのことを思いやり助けていきたいと思う、武士として本当の気構えを持っている人物」であると読み取ることができるのです。
乙次郎(僕)が、玄蕃のどのような人柄に肯定的な感情を抱いているのか読み取っていきましょう。
時代小説の読み方[まとめ]
ここまで解説したように、時代小説の読解は子どもたちにとってハードルが高いです。
ですが、人物や出来事さえ整理して読むことができれば、問われていることに正確に答えることができます。
大切なことは、時代背景などの物語の前提となる知識を、子どもたちにしっかりと教えることです。
これは、どんな物語や説明文においても、大切な指導になります。
このような指導を続けることで、子どもたちは前提となる知識をふまえて読解していくことの重要性を学んでいきます。
子どもたちが国語の文章を通して、幅広い知識を獲得するきっかけにもなります。
読解が困難だからこそ、丁寧に指導していきましょう!
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