【2024年度入試】早稲田実業学校中等部 国語・説明文[大問2]全問解説

早稲田実業学校中等部は、東京都国分寺市にある私立の男子校です。早稲田大学系列の学校であり、1901年に設立された長い歴史を誇ります。中等部は、早稲田実業高等部、さらには早稲田大学への進学を見据えた一貫教育を提供しています。学業だけでなく、部活動や学校行事にも力を入れ、人間的成長を促すことを重視しています。

2024年度の説明文は『ゼロからの「資本論」』(著:斎藤幸平)が出題されました。資本主義社会における「商品」の概念を、マルクスの理論に基づいて説明しています。筆者は「資本主義=正義」という今までの常識を疑問視していることが論のベースになっていますが、小学生には難しい内容ですね。

文章の概要

要約

資本主義社会では、商品が持つ本来の有用性(使用価値)よりも、どれだけ利益を生むか(価値)が重視されると述べています。例えば、タピオカドリンクや高級食パンが流行した際、たくさんの店ができたものの、過剰供給によってすぐに消えてしまうのはその一例です。

また、商品は「使用価値」(役に立つこと)と「価値」(市場での価格)という2つの顔を持ち、資本主義では「価値」が優先されがちです。そのため、人間は物を使う側から物に支配される側に逆転し、結果的に消費者も企業も振り回されることになるとしています。

筆者の主張や考えが表れている文

筆者の主張や考えが表れている重要な文を、いくつか挙げていきます。本文に線を引けているか、確認してみてください。

  1. 資本主義社会で 生産される「商品」は、人々の生活に本当に必要か、 本当に重要かどうかよりも、それがいくらで、どれくらい売れそうか―言い換えると、どれくらい資本を増やすことに貢献してくれるか ―が重視されます

    ⇒ 文末に「重要」「大切」「べきだ」「思う」などのがある場合は、筆者の考えが書かれている場合が多い。

  2. ところが、 いったんマスクが売れるとなれば、スポーツ用品メーカーやファッションメーカーなど畑違いの企業が続々と参入し、マスク市場は飽和状態に。

    ⇒ 「しかし」「ところが」「それに対して」「でも」などの対比表現は、前の文もあわせて線を引きましょう。対比表現以降に、筆者の言いたいことが書かれている場合が多いです。

  3. 一つは、「使用価値」という顔です。「使用価値」とは、人間にとって役に立つこと(有用性)、つまり人間の様々な欲求を満たす力です。・・(中略)・・しかし、資本主義において重要なのは、商品のもう一つの顔、「価値」です。

    ⇒ 「一つは」「もう一つの顔」は並列の関係になっています。「まず」→「次に」→「最後に」などと、筆者がいくつかの事例を並列で示す場合に使われる表現です。何と何が並列の関係になっているのか、意識しながら読みましょう。

  4. それに対して、「商品」としての椅子は、市場で1万円 の値札がつき、500個の卵や2枚のシーツなど別の物と同じ価格で 交換されるわけです。なぜでしょうか?・・(中略)・・つまり、椅子や卵、シーツにも同じだけの労働時間が費やされているから、同じ価値を持つものとしてどれも1万円で交換される ― これが、「労働価値説」です。

    ⇒ 「なぜでしょうか?」は筆者の問いかけです。これ以降に前述の事例について説明されており、「つまり・・・」と意見をまとめています。問いかけがあった場合は、答えを探しながら読みましょう。

難しい語句の解説

  1. 資本主義(しほんしゅぎ):お金を持っている人や企業が、利益を出すために自由に商品を作ったり売ったりする社会の仕組みです。
  2. 乱立(らんりつ):たくさんのものが同じ場所に次々とできることを指します。
  3. 典型例(てんけいれい):ある特徴をよく表している具体的な例のことです。
  4. 畑違い(はたけちがい):自分の得意な分野とは異なることを表します。
  5. 効能(こうのう):よい結果をもたらすはたらき。ききめ。
  6. 不合理(ふごうり):理に合っていないこと。論理的な筋が通らないこと。
  7. メカニズム:物事のしくみ。機構。組織。
  8.  後追い的(あとおいてき):何かが起きた後で、それに合わせて動くことです。

(問1)~(問3)全問解説

(問1) ―線1「無駄な商品を資本は作ってこなかった」とあるが、筆者はどのような商品のことを「無駄な商品」と言っているのか。指定された字数で言葉を入れて、説明文を完成させなさい。なお、「使用価値」という言葉を必ず用いること。

■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、『どのような商品のことを「無駄な商品」と言っているのか』と問われている部分です。どのような商品かと問われているので、「○○な商品」と解答します。

この問題は、以下のような説明の空欄を埋める問題です。

[ 15字以内 ]ので、資本を増やすことに貢献しない商品

「資本を増やすことに貢献しない商品」という(記述の核)になる部分はすでに書いてあります。そこで、(記述の核)になる前半を考える問題であると理解すると良いでしょう。空欄の後に「ので」とあるので、空欄には理由が入ることがわかります。つまり「資本を増やすことに貢献しない」理由を解答すればよいのです。


■問題文の条件に注目する
この問題は、「使用価値」という言葉を用いるという条件が示されています。条件が示されている場合は、その言葉が書かれている文を探し、内容を確認することが大切です。まずは「使用価値」という言葉が出てくる文を探しましょう。すると、『「使用価値」とは、人間にとって役に立つこと(有用性)、つまり人間の様々な欲求を満たす力です』と定義されています。

問題文の条件は、解答するためのヒントです。条件の言葉の意味をしっかりと確認しましょう。


■[―線部を含む一文]を注意深く読みとる
条件を確認した上で、[―線部を含む一文]に注目していきましょう。

[―線部を含む一文]
感染症流行に対する備蓄の必要性は専門家によって指摘されていたにもかかわらず、そのような無駄な商品を資本は作ってこなかったのです。

感染症流行に対する備蓄の必要性は専門家によって指摘されていた」=「使用価値」があった ということです。先ほど確認した条件が、ここでつながります。

また、「そのような」という指示語に注目しましょう。―線部を含む一文に「そのような」などの指示語がある場合は、指示語が指し示す内容を必ず明らかにしましょう。直前の文を読むと、この指示語はコロナ禍に足りなくなったマスクや消毒液のことを指していることがわかります。
では、マスクが「無駄な商品」である理由を探していきます。すると、次の段落に『平時には需要が限られているマスクよりも、もっと「売れる」商品を作らなければなりませんでした』とあるため、マスクは「売れない」から「無駄な商品」とされていることがわかります。

このように考えると、マスクなどが資本を増やすことに貢献しない商品である理由は「必要性(使用価値)が指摘されていたが、売れないから」であると分かります。指定された字数でまとめると、次のようになります。

〈正答例〉
[ 使用価値はあるが売れない(12字) ]ので、資本を増やすことに貢献しない商品

(問2) ―線2「『価値』は人間の五感では捉えることができません」 とあるが、それはなぜか。文中の内容をふまえ、指定された字数で言葉を入れて、説明文を完成させなさい。なお、「労働時間」という言葉を必ず用いること。

■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、「それはなぜか」という部分です。なぜと問われているので「〇〇だから」と答えます。先ほどのように説明の空欄を考える問題なので、以下の空欄にあてはまる記述を考えていきましょう。

商品の価値は[  30字以内  ]によって決まるものだから


■問題文の条件に注目する
この問題では、「労働時間」という言葉を用いるという条件が示されています。この言葉が解答のヒントになるので、「労働時間」という言葉を探し、文の内容を確認していきましょう。

マルクスによれば、この「価値」は、その商品を生産するのにどれくらいの労働時間が必要であったかによって決まるのです。つまり、椅子や卵、シーツにも同じだけの労働時間が費やされているから、同じ価値を持つものとしてどれも1万円で交換される ― これが、「労働価値説」です。

つまり、「価値」は商品を生産するための「労働時間」で決まっているということになります。

「ケーキ屋さんのケーキは、パティシエが時間をかけてつくっているから値段が高いんだろうね」などと、例を示して解説してあげましょう。


■(問われていること)にできるだけ短く解答し(記述の核)をつくる
記述問題のコツは、(問われていること)にできるだけ短く解答することです。問題の空欄にできるだけ短い言葉を入れて、(記述の核)をつくります。

商品の価値は[  30字以内  ]によって決まるものだから

先ほど「価値」は「労働時間」で決まるという内容を確認したため、この問題にできるだけ短く答えると、以下のような解答になります。

商品の価値は[  労働時間  ]によって決まるものだから。

これを(記述の核)とし、文をつけ加えて解答を完成させましょう。


■(記述の核)に文をつけ加えて完成させる
(記述の核)が完成したので、これに文をつけ加えて完成させましょう。

つけ加える文は ①対比 ②原因 ③説明 のどれかを、状況によって選択しましょう。
対比 → 2つのものを比較する書き方です。「○○だったが」
原因 → (記述の核)の原因を記述します。「○○だから」
説明 → (記述の核)を詳しくする文をつけ足します。「○○なほど」「○○くらい」

今回は、「労働時間」の③説明をつけ加えればうまくいきそうです。『マルクスによれば、この「価値」は、その商品を生産するのにどれくらいの労働時間が必要であったかによって決まるのです』という文から、「商品を生産するのにかかった労働時間」という説明をつけ加えることができます。

これでも字数が足りないので①対比の文もつけ加えていきましょう。「価値」と対比的に書かれているのは「使用価値」であり、前に確認した[―線部を含む一文]にも『「使用価値」の効能は、実際にそのものを使うことで実感できますが』と書かれています。したがって、「使用価値ではなく、商品を生産するのにかかった労働時間」とまとめることができます。

〈正答例〉
商品の価値は[ 使用価値ではなく、商品を生産するのにかかった労働時間(27字) ]によって決まるものだから。

(問3) ―線3「不思議な事態」とあるが、それはどういうことか。指定された字数で言葉を入れて、説明文を完成させなさい。なお、C には「変動」という言葉を必ず用いること。D にはⅡ文中から十五字以上二十字以内で言葉を抜き出し、最初と最後の五字を答えなさい。

(問2)まで問題を解いていくと、Aは「使用価値」について、Bは「価値」についてまとめていけばよいことがわかるのではないかと思います。しかし、Cは難問です。「変動」という言葉は本文には出てこないので、苦労した方も多かったと思います。Cを中心に解説します。

■(問われていること)に対する短い解答(記述の核)を考える
これまでの問題と同様、(問われていること)に対する短い解答を考えます。(問われていること)はどういうことかという部分です。どういうことかと問われた場合は、「言い換える」ことが必要です。「抽象的な表現を、具体的に言い換える」問題であることを理解しておきましょう。

(問われていること)に対する短い解答(記述の核)は、Dの抜き出し問題であるため、Dから先に解答することをおすすめします。「不思議な事態」とはどのような事態か、前の段落から見つけることができます。

D[ 人間がモノに振り回され、支配される(17字) ]状況になったということ。

これを記述の核とし、つけ加えるCの文を考えていきましょう。


■(記述の核)につけ加えるCの記述を考える
空欄のCとDの関係は以下のようになっています。

C[ (15字以内) ]できないので
D[ 人間がモノに振り回され、支配される ]状況になったということ。

ので」とあるので、ここではDの理由を考えていきます。ここで、[―線部を含む一文]を確認してみましょう。

[―線部を含む一文]
なぜそのような不思議な事態が生じるかというと、人々はお互いが作るものに依存しているにもかかわらず、社会全体としては誰も生産を調整していないからです

なぜそのような不思議な事態が生じるかというと、・・・・からです」と、不思議な事態(D)になっている理由が書かれているのです。その理由は「社会全体としては誰も生産を調整していない」からだと述べられています。これを、問題文に指定があるように「変動」という言葉を用いて説明しなければいけません。


■「変動」という言葉を用いて説明する
社会全体としては誰も生産を調整していない」ということはどういうことか、―線3を含む一文の後の文で詳しく説明されています。

〈―線3を含む一文の後の文〉
みながバラバラに労働しているせいで、 自分が作っているものが完全に無駄なものだったり、逆に、みんなが必要としているものなのに全然足りなかったりする。結局、作った商品を市場に持って行って、それがどのように他者に評価されるかを見ながら、何をどれくらい作るかを後追い的に決めなければなりません。

「他者からの評価(需要)によって「何をどれくらい作るか(生産)「変動」させていかなければならないということです。つまり、需要生産変動を、「社会全体としては誰も生産を調整していない」と述べているのです。これを、字数以内にまとめていきます。

〈正答例〉
C[ 市場の需要と生産の変動を調整(13字) ]できないので、
D[ 人間がモノに振り回され、支配される ]状況になったということ。

参考にしてみてください。

【2024年度入試】早稲田実業学校中等部 説明文まとめ

今回の解説記事はどうだったでしょうか。本文の内容は資本主義の経済の特徴について書かれており、内容の理解は困難です。解説でも示したように、お子さんがわかりやすいような例を挙げて話してあげるようにしてください。

内容は難しかったのですが、読み方と解き方の基本をマスターしていれば、解答することができます。

  • 問われていることに対する短い解答を先に考える
  • 条件をヒントに問題を解く
  • ―線部を含む一文を注意深く読みとる
  • 重要な文に指示語があった場合には、指し示す内容を明らかにする

これらができていたか、確認してみてください。

内容が理解できないと焦りますが、そんな時こそ基本に立ち返って読み進めるようにしましょう!

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