芝中学校は東京都港区に位置する中高一貫の男子校です。この学校は、元々浄土宗の僧侶教育を目的に設立されましたが、現在では大学です進学に力を入れる進学校として知られています。東京タワーの近く、増上寺の裏手に手が届く位置にあり、伝統的な「順法自治」の精神に基づいた自由で自主性を尊重する校風が特徴です。
2024年度の説明文は『ひとはなぜ「認められたい」のか―承認不安を生きる知恵』(著:山竹伸二)から出題されました。芝中学校の問題は全問記述問題です。大問3の最後の問題は80字以上100字以内で記述する問題でした。難易度の高い記述問題を、解説していきます。
- 文章の概要
- [問1]~[問4]全問解説
- [問1]―線部①〈周囲の人にも認められ、承認不安に苦しむことなく、「したい」こともできるはずです〉とありますが、そのために必要なことは何ですか。
- [問2]―線部②〈「したい」という思いを回避するようになり、「したい」ことがわからなくなるかもしれません〉とありますが、家庭において、このような状況が生じる原因を、誰が、誰に対して、どうすることかの三つを明らかにして説明しなさい。
- [問3]―線部③〈本来、学校は多様な人間が集う場所なので、さまざまな価値観や考え方、感受性に出会い、多様なあり方を学べます〉とありますが、筆者は、その学びが十分に達成されていない現状があると考えています。その理由を説明しなさい。
- [問4]―線部④〈主体的な意志が未成熟で、自分のしたいことがわからなくなってしまう〉とありますが、このような状態にならないためには、どのような生活を送る必要がありますか。本文全体をふまえて説明しなさい。
文章の概要
要約
現代の若者が「したいことがわからない」という問題について、その背景にある承認不安の影響が論じられています。親の期待や命令が多すぎると、子どもは「したいこと」を我慢し、学校でも周囲に合わせることで自分の意志を見失いやすくなります。結論として、子どもが自分の「したいこと」に没頭できる時間を持つことが重要であり、それが将来、主体的に行動できる人間に成長するための鍵であると述べられています。
筆者の主張や考えが表れている文
筆者の主張や考えが表れている文は、以下のような文が挙げられます。本文に線を引けているか、確認してみてください。
- しかし、そのような人であっても、幼児期にさかのぼれば、きっと「したい」こともいろいろあったにちがいありません。
- ですから、そのような行動をしても大丈夫、という安心感が必要なのです。
- こうした「したい」ことに没頭することは、子どもが自分の「したい」 ことを広げ、主体的な意志をもった人間になる上で、とても貴重な体験と言えます。
- それが適度にできれば、周囲の人にも認められ、承認不安に苦しむことなく、「したい」こともできるはずです。しかし、必要以上に他人の目を気にし、周囲に配慮しすぎれば、自由の実感は失われてしまいます。
- したがって、子どもがなにか関心のあること、興味のあることを試そうとしたとき、十分にさせてあげたほうがよいでしょう。
- そう考えると、自分のしたいことを自覚し、主体的に行動できる、そんな人間に育てるためには、やはり「したい」ことに没頭できる時間が必要なのです。
- それはお互いの考えや感じ方を認め合い、自由に生きる上で、とても重要な経験となるでしょう。自由を認め合い、自由に生きる能力を身につける場として、学校は重要な役割を担っているのです。
- ところが、現在の学校は多様性よりも同一性が重視されています。同じような考え、行動、価値観が求められ、同調せざるを得ない雰囲気に満ちているのです。
黄色マーカーをつけているのは、逆接の接続詞です。「しかし」「ところが」などは対比表現です。前の文もあわせて線を引き、内容を正確に読みとるようにしましょう。「しかし」以降に、筆者の言いたいことが書かれている場合が多いです。
赤色マーカーをつけているのは、筆者の考えを示す文末表現です。「必要」「ちがいありません」「できるはず」などに注目し、この文末表現を含む一文すべてに線を引きましょう。このような文末表現が使われている文には、筆者の考えが書かれている場合が多いです。
難しい語句の解説
- 得体(えたい)のしれない:素性がよく分からない、正体不明で怪しい。
- 親和的承認(しんわてきしょうにん):家族や恋人、親友など、愛と信頼の関係にある他者から与えられる承認。
- 没頭(ぼっとう):一つの事に熱中すること。
- 主体的(しゅたいてき):自分から主体となって働きかけるさま。[対義語]受動的
- 邁進(まいしん):まっしぐらに突き進むこと。
- 自己不全感(じこふぜんかん):自分がない、自分がわからないと感じるさま。
- 感受性(かんじゅせい):外からの刺激や印象を感じとる能力。
- 排他的(はいたてき):自分や自分が属している仲間、組織などから外部の者を退けて受け入れないこと。[対義語]親和的
- スクール・カースト:学校内でのグループや階層の序列のこと。
- 流動的(りゅうどうてき):物事が、その時々の状況によって変わるさま。[対義語]固定的
- 忖度(そんたく):相手の気持ちや考えを推し量ること、推察・推測すること
[問1]~[問4]全問解説
[問1]―線部①〈周囲の人にも認められ、承認不安に苦しむことなく、「したい」こともできるはずです〉とありますが、そのために必要なことは何ですか。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、「そのために必要なことは何ですか」という部分です。
「何」と問われている場合は、文末は名詞で解答します。「○○なこと」と解答することも可能です。まずは、(問われていること)を見つけ、解答の仕方を確認しましょう。
また、「そのため」という指示語が何を指しているか、明確にします。もちろん―線部①の内容を指しているので、『「したい」ことができるために必要なことは何か』という問いに答えれば良いことを確認しましょう。
■―線部を含む一文を注意深く読みとる
解答を考える時に、―線だけに注目していてはいけません。―線を含む一文全てに線を引き、注意深く読みとることが大切です。
それが適度にできれば、周囲の人にも認められ、承認不安に苦しむことなく、「したい」こともできるはずです。
このように、―線部①の前半には【それが適度にできれば】という文があります。つまり、【それが】が指している内容を明らかにすれば、問われていることに正確に答えられるのです。
■【それが適度にできれば】が指している内容を確認する
直前の文には「自分のしたいことだけに没頭するわけにはいきません。他人の迷惑にならないように、周囲と協調して生きることも必要です。」とあります。ここでの【それ】とは、「周囲と協調して生きること」を指しています。
つまり、『「したい」ことができるために必要なことは何ですか』という問いには、「適度に周囲と協調して生きること」と答えれば良いことがわかります。
■前半に文をつけ足して記述を完成させる
「適度に周囲と協調して生きること」と解答すれば良いことはわかりましたが、これだけでは、筆者の主張と一致しません。本文に「子どもがなにか関心のあること、興味のあることを試そうとしたとき、十分にさせてあげたほうがよいでしょう」とあるように、筆者は、幼児期に「したい」ことを十分にさせることの重要性を説いており、そのことが承認不安に苦しむことなく生きられると主張しています。このことを踏まえて解答しましょう。
[正答例]
幼児期に興味があることをさせながら、適度に周囲と協調して生きること。(34字)
[問2]―線部②〈「したい」という思いを回避するようになり、「したい」ことがわからなくなるかもしれません〉とありますが、家庭において、このような状況が生じる原因を、誰が、誰に対して、どうすることかの三つを明らかにして説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、「このような状況が生じる原因を、誰が、誰に対して、どうすることか説明しなさい」という部分です。問われていることが3つあることを、確認しましょう。
また、「このような」とは、―線部②の内容を指しており、「したい」ことがわからなくなる原因を説明する問題であることもおさえておきましょう。
■―線がある一文すべてを確認する
[問1]と同様、―線がある一文すべてに線を引き、内容を確認していきます。
こうなると「したい」という思いを回避するようになり、「したい」ことがわからなくなるかもしれません。
すると、―線部の直前に【こうなると】という指示語があり、これは直前の文の「親の顔色をうかがうようになる」という部分を指しています。つまり、「親の顔色をうかがうようになる原因」を考えると、子どもが「したい」ことがわからなくなる原因を説明できるということがわかります。
■(誰が・誰に対して・どうすることか)を確認する
以上のことをおさえて、問題文にある(誰が・誰に対して・どうすることか)を確認していきましょう。先ほど確認した「親の顔をうかがうようになる原因」は、直前に書かれています。
子どもが「したい」と思ったことをしようとする度に、親に注意され、止められ、勝手にやろうとすれば不機嫌になるようなら、やがて「したい」という思いが生じても、同時に不安が生じてブレーキがかかるようになり、親の顔色をうかがうようになるでしょう。
つまり、以下のようにまとめることができます。
(誰が)→親が
(誰に対して)→子どもに対して
(どうすることか)→注意すること・止めること・勝手にやろうとしたら不機嫌になること
これを25字以上30字以内にまとめると
[正答例]
親が子どもに対し、していることを注意したり止めたりすること。(30字)
[問3]―線部③〈本来、学校は多様な人間が集う場所なので、さまざまな価値観や考え方、感受性に出会い、多様なあり方を学べます〉とありますが、筆者は、その学びが十分に達成されていない現状があると考えています。その理由を説明しなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は、「その理由を説明しなさい」という部分です。「理由」を答える問題であるため、文末は「○○だから」と答えればよいことを確認します。
また、「その理由」とは、―線部③の学びが十分に達成されていない現状がある理由であることをおさえておきましょう。その理由を本文から見つけていきます。
■逆接の後の言葉に注目する
今回の問題では、逆接の表現に注目すると、筆者の考えを正しく読みとることができます。「しかし」「ところが」「○○だが」などの逆接の後には、筆者が伝えたい考えが書かれていることが多いので、必ず注目しましょう。
〈―線部③がある段落の次の段落〉
ところが、現在の学校は多様性よりも同一性が重視されています。同じような考え、行動、価値観が求められ、同調せざるを得ない雰囲気に満ちているのです。
〈―線部③がある段落の2つ後の段落〉
もちろん、社会で共に生きていくためには、最低限のルールや価値の共有は必要ですが、学校がルールの根拠を示さないまま、無意味な校則 を守らせたり、平等性を強調して同じような行動ばかりさせていれば、子どもたち同士の間でも同質性を求めあい、異質な言動を排除する傾向が生まれてくるかもしれません。
このように、逆接の後の文には筆者の主張が書かれていることが多いため、(問われていること)の答えになる場合がよくあります。今回の問題でも、これらを手がかりに、記述をまとめていきましょう。
[正答例]
現在の学校は同一性を重視しており、異質な言動を排除する傾向があるから。(35字)
[問4]―線部④〈主体的な意志が未成熟で、自分のしたいことがわからなくなってしまう〉とありますが、このような状態にならないためには、どのような生活を送る必要がありますか。本文全体をふまえて説明しなさい。
■「本文全体をふまえて」解答する問題
この問題のように「本文全体をふまえて」と書かれている問題は、本文の前半部分から読みとったことを記述する場合が多いです。今回の問題でも、本文の前半部分から読みとった内容を記述する問題になっています。
「主体的な意志が未成熟で自分のしたいことがわからなくなってしまう」原因は2つ述べられています。1つ目は「家庭による過度の要求や期待」であり、2つ目は「学校での同質性を求める環境」です。つまり、家庭と学校において、―線部のような状態にならないために、どのような生活を送る必要があるかをまとめていく必要があるのです。
■家庭における理想の生活をまとめる
家庭にける理想的な生活が読みとれる文を抜き出すと、以下のようになります。
- このような行動ができる子どもは、親和的承認が満たされている可能性が高いと思います。
- やはり「したい」ことに没頭できる時間が必要なのです。
つまり、家庭においては親和的承認が満たされており、「したい」ことに没頭できる時間がある生活が理想であると言えます。
■学校における理想の生活をまとめる
同様に、学校についても考えていきましょう。学校における理想的な生活が読みとれる文は
- 自由を認め合い、自由に生きる能力を身につける場として、学校は重要な役割を担っているのです。
つまり、学校においては自由を認め合い、自由に生きる能力を身につけられるよう生活することが理想であると言えます。
■記述を完成させる
このように、家庭と学校ですべき生活をまとめると、記述を完成させることができます。しかし、この問題は80字以上100字以内と、字数の多い問題なので、内容をつけ加えましょう。
学校における生活を記述する前に、対比的な文「~するのでなく」をつけ加えると、うまくまとめられそうです。本文に「そのため、仲間の集団的承認を維持するには、同調し、付度した行動を取るしかありません。」とあるので、この内容を追加して、記述を完成させましょう。
[正答例]
家庭においては、親和的承認が満たされた状態で「したい」ことに没頭し、また、学校においては、集団的承認を維持するため忖度した行動をとるのではなく、自由に生きる能力を身につけられるよう考えて生活すること。(100字)
記述問題ばかりで、字数の多い問題が出題される芝中学校の入試に対応する力をつけるには、何度も記述問題を解いてみることが重要です。しかし、正しい手順で考えていかないと、確実な力をつけることができません。記述問題の解き方についても解説していますので、ぜひご覧ください!
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