神奈川御三家の一つである聖光学院中学校は、神奈川県横浜市中区にある私立男子校です。カトリックの学校という背景があり、カトリックの教えに基づく情操教育にも力を入れています。大学進学を目指す生徒へのサポートも充実しており、東大をはじめとする難関大学に合格者を輩出する高い進学実績を誇っています。
2024年度の物語文は『すきだらけのビストロ うつくしき一皿』(著:冬森灯)から出題されました。プロポーズをしようとする主人公の心情が描かれているため、小学生には読みとることが難しい内容です。レストランの描写についても、イメージしづらいお子さんには補足してあげることが大切です。
- 文章の概要
- 重要問題解説 問4・問6・問7・問8・問9
- [問4]選択問題 ―線部③に「織絵さんは、瞳をゆらして、視線を落とした」とありますが、このときの織絵さんについて説明した文を選びなさい。
- [問6]選択問題 ―線部⑤に「色とりどりのソースが囲んでいた」とありますが、 このような料理を作っているシェフの思いはどのようなものですか。
- [問7]選択問題 ―線部⑥に「すべてがつながった」とありますが、それはどういうことですか。
- [問8]記述問題 ―線部⑦に「こんなふうになれたらいいな」とありますが、織絵さんがこのように思うのはどうしてですか。「こんなふうに」の内容を明らかにしながら説明しなさい。
- [問9]記述問題 ―線部⑧に「きっといま、絵画が、生まれる」とありますが、どういうことか説明しなさい。
文章の概要
あらすじ
主人公の「山吹くん」と「織絵さん」は、美術館で見るはずだった絵を見逃してしまい、織絵さんが落ち込んでいました。二人はその帰り道に、織絵さんが見つけた風変わりなレストランに入ります。そこで提供される料理や雰囲気が織絵さんを元気にさせますが、山吹くんは美術について詳しくないことを悩みます。絵についての知識がないと告白した後、二人の関係はどうなるのかを考えながら、山吹くんはプロポーズのタイミングをつかみかねています。物語は、料理や美術を通じての二人の関係性の変化を描いています。
登場人物とその特徴
- 山吹くん(僕):美術に詳しくないことを気にしながらも、織絵さんにプロポーズを考えている優しい青年
- 織絵さん:美術に対する深い理解と感受性を持ち、山吹くんに対して誠実に向き合う心優しい女性
- ギャルソン:プロフェッショナルな態度で二人の食事を演出する親切なレストランの給仕係
- シェフ:美術への愛を料理に込め、独自の世界観で客を感動させるレストランの料理長
難しい言葉・重要語句の解説
- アンティーク:古くて価値のある物、特に家具や装飾品のことを指します。
- ヴェルヴェット:ベルベットとも言い、柔らかくて光沢のある布地のことです。
- ベニエ:フランスの揚げ菓子の一種で、日本のドーナツに似た料理です。
- テリーヌ:フランス料理で、肉や魚、野菜などの素材を型に詰めて冷やし固めた料理です。
- ポワレ:フランス料理で、食材を軽く焼き上げた料理を指します。
- メレンゲ:砂糖を加えて泡立てた卵白のことです。
- 複製画:オリジナルの絵を模倣して作られたコピーの絵です。
- 虚勢(きょせい):実際には自信がないのに、強がって自分を大きく見せようとすること。
- 感受性(かんじゅせい):周囲の状況や他人の感情、美しいものなどに敏感に反応し、それを感じ取る能力のこと。
- 憂き世(うきよ):苦しみや悲しみが多い世の中のことを指す古い言葉。
主人公の心情変化
物語の中で、山吹くんは美術に詳しくない自分に劣等感を抱き、織絵さんに対して不安を感じていました。しかし、レストランで織絵さんが絵を楽しむ姿や、シェフが料理を通じて絵の魅力を語る様子に触れ、山吹くんは「絵を楽しむこと」は知識ではなく素直に感じることだと気づきます。自分の無知を認める勇気を持ち、未熟さを受け入れながらも織絵さんとの関係を大切にしようと決意し、不安から前向きな希望へと心情が変化していきます。
重要問題解説 問4・問6・問7・問8・問9
今回解説する問題は、解答するのが困難な上記の6問です。問われている―線部の後の場面に答えがある問題が多く、物語全体の流れをおさえておくことが重要です。選択肢が微妙で選びづらい選択問題[問4][問6][問7]。どのように記述したらよいか判断しづらい記述問題[問8][問9]。
順に解説していきます。
[問4]選択問題 ―線部③に「織絵さんは、瞳をゆらして、視線を落とした」とありますが、このときの織絵さんについて説明した文を選びなさい。
織絵さんの心情を考える
■―線部の言葉に注目する。
まずは、―線部の言葉を注意深く読みとることが大切です。ここでは「瞳をゆらして」という表現に心情が表れていることをおさえましょう。主人公から「本当は美術がわからない」と打ち明けられた織絵さんの心情を表している表現です。
まず「瞳がゆれる」という言葉から、心が揺れ動いている状態をイメージできることが大切です。子どもに、視線がゆれ動いている様子をイメージさせると良いでしょう。「驚き」「戸惑い」「悲しみ」などの心情を理解させることができます。「動揺」という言葉にも「揺れる」という漢字が使われていますね。この後に視線を落とす動作が続くため、織絵さんの残念に思う気持ちや、どう返答してよいかわからず戸惑っている気持ちが読みとれます。
■心情の原因を考える
織絵さんがこのようなマイナスの心情になったのは、主人公の「本当は美術がわからない」という告白が原因です。しかし、主人公が虚勢を張ったことに幻滅してマイナス心情になったというわけではありません。織絵さんの本心は、物語後半の場面の織絵さんのセリフから読みとることができます。
[織絵さんの本心が読みとれるセリフ]
「知識や背景を知るのも楽しいけど、私、山吹くん自身の言葉の方が、 ずっと好き。さっき言おうと思ったの。もしかして山吹くんて、美術をもっと楽しめるんじゃないって」
つまり、織絵さんは、主人公自身の言葉で美術を語ってほしいと思っていたということがわかります。「さっき言おうと思ったの」という発言から、―線部③の場面で言いたかったけど言えなかった気持ちが、「瞳をゆらして、視線を落とした」という行動につながっていると読みとれます。
中学受験の国語は、文章全体の内容を把握しておかなければ解答できない問題が出題されます。まず全文を読んでから解答するようにしていきましょう。
選択肢のまちがいを見つける
選択問題の基本は、選択肢のまちがっている部分を見つけることです。まちがっている部分は、以下のようになります。
(ア)✕山吹くんへの信頼が揺らぐ事態に直面して衝撃を受け
→「信頼が揺らぐ事態に衝撃を受け」という表現は言い過ぎであり、山吹くん自身の言葉で語ってほしかったという方が適切。
(イ)✕怒りを覚えている
(エ)✕罪悪感を覚えている
→上記のように織絵さんの心情を読みとると「怒り」や「罪悪感」は不適切。
(オ)✕山吹くんは美術の好みが自分と根本的に合わない
→山吹くんが打ち合けたことで―線部のような心情になっているため、好みが合わないという理由はまちがい。
(ア)と(ウ)の選択肢で迷うかもしれまぜんが、そんな時は選択肢を比較してみましょう。
(ア)山吹くんへの信頼が揺らぐ事態に直面して衝撃を受け
(ウ)山吹くんにはもっと自分の言葉で美術について語ってほしい
このように比較すると、後の織絵さんのセリフから、(ウ)が適切であると判断できます。
[問6]選択問題 ―線部⑤に「色とりどりのソースが囲んでいた」とありますが、 このような料理を作っているシェフの思いはどのようなものですか。
シェフの思いが読みとれるところを見つける
シェフの思いが読みとれるところは、―線部⑤の後、シェフが登場する場面のセリフから読みとることができます。
[シェフの思いが読みとれるセリフ]
「ここに飾った作品から想像を広げておつくりしました。〈色彩の魔術師)と呼ばれた彼にちなんで、たくさんの色を召しあがっていただこうと思いましてね。画家がよろこびを描き出す源、パレットのように仕立てました。彼の作品を見ると私はどうにも動き出したくなって、ソースが予定より多くなってしまったんですが」
このセリフから、〈色の魔術師〉マチスの絵にちなんで、たくさんの色を使ったことがわかります。
そして、さらに後の場面でのシェフのセリフからも、シェフの料理と芸術に対する思いが読みとれます。
[シェフの思いが読みとれるセリフ]
「世の中ってやつには、憂いが多いですがね。すばらしい芸術と、おいしい料理があれば、憂き世を乗り越えていける気がするんです。だから、店の名は、つくし、とつけました。わかります?」
このように、様々な場面で思いが読みとれるため、物語の全体像をおさえながら読んでいくことが大切です。
選択肢のまちがいを見つける
上記のシェフの思いに合わない、まちがった選択肢は以下のようになります。
(ア)✕人々を日常から解放する魔術師でありたい
→「人々を日常から解放する」という目的や「魔術師になりたい」という願望をシェフはもっているわけではないのでまちがい。
(ウ)✕人々の個性に合わせて自分らしく生きてい くことの喜びを提供したい
→シェフは特に「自分らしく生きていくことの喜び」や「個性に合わせること」を意図しているわけではないのでまちがい。
(エ)✕レストランを人々に喜びを与える美術館の代わりにしたい
→シェフは、料理を美術館の代わりにしようと考えているわけではないのでまちがい。
(オ)✕織絵さんのような絵がわかる人にこそ、この料理を堪能してほしい
→シェフは、自分の料理を、絵のわかる特定の人々に限定して楽しんでほしいとは考えていないのでまちがい。
このように、本文の記述と適さない部分を見つけていき、前述したシェフの思いを読みとることができていれば、
(イ)マティスの作品に触発されて作った、色とりどりのパレットに見立てた料理が、食べた人々の心と体を満たし、 辛いこともある日常を喜びに満ちた日々に変えたいという思い
この選択肢が正答であるとわかります。
[問7]選択問題 ―線部⑥に「すべてがつながった」とありますが、それはどういうことですか。
何が「すべてつながった」のか?
主人公が「すべてつながった」と思っているのですが、「すべて」とは何なのでしょうか。まずは洗い出してみましょう。
- 絵画の正体:レストランにある絵がマティスの作品であることが分かった瞬間です。
- シェフの意図:料理の色彩がマティスの絵画を反映しているというコンセプトを理解した瞬間でもあります。
- 織絵さんの行動や言葉の意味:織絵さんがずっとその絵に惹かれていた理由や、彼女がこのレストランで見せた振る舞いがすべて、この絵画に関連していることを理解したのです。
上記のようなことが一気に理解できたため、主人公は「すべてつながった」と感じた場面です。特に、織絵さんがレストランに来てから上機嫌だった理由が理解できたことが、主人公の心情の中心であることをおさえておきましょう。
選択肢のまちがいを見つける
上記の主人公の心情に合わない、まちがった選択肢は以下のようになります。
(ア)✕織絵さんが真剣に絵と向き合う人だと気づいた
→織絵さんが絵に真剣であることをすでに理解しているのでまいがい。
(イ)✕料理と絵画が芸術的喜びとして調和した
→料理と絵画の調和というよりも、織絵さんの感情や行動を理解したことが心情の中心であるため、より相応しい選択肢があると考えられる。
(ウ)✕織絵さんが「僕」の嘘に気づかないふりをしていた理由がわかった
→織絵さんが「僕」の嘘に気付いていたけど気付かないふりをしていたという描写はないのでまちがい。
(エ)✕絵の中の料理について想像を膨らませる楽しさに気づいたことで、主人公が織絵さんの気持ちを理解できるようになった
→織絵さんが絵に惹かれていた理由を理解できたことが心情の中心であるのに、料理を楽しむことに焦点を当てているためまちがい。
織絵さんの変化の理由がわかったことが、主人公の心情の核心であるため
(オ)棚の上の絵がマティスの作品だと気づいたことで、先ほど美術館で目当ての作品がなくて落ち込んでいた織絵さんの心の変化に、「僕」も納得できたということ。
この選択肢が正答であると言えます。
[問8]記述問題 ―線部⑦に「こんなふうになれたらいいな」とありますが、織絵さんがこのように思うのはどうしてですか。「こんなふうに」の内容を明らかにしながら説明しなさい。
「こんなふうに」の内容を明らかにする
■「こんなふうになれたらいいな」と言われた主人公の心情
主人公は、織絵さんに「こんなふうになれたらいいな」と言われて、複雑な心情になっています。
[主人公の心情がわかる記述]
描かれたふたりは、友人か音楽仲間のように見える。少なくとも、愛や恋といった雰囲気ではなさそうだ。 僕は鞄の中の指輪を思った。残念ながら、出番はないらしい。
ここから、主人公は「織絵さんは自分と友人のような関係を望んでいる」と解釈します。
では、織絵さんはどのように思っていたのでしょうか。
■「こんなふうになれたらいいな」と言った織絵さんの気持ち
織絵さんの気持ちは、以下のセリフからわかります。
[織絵さんの気持ちがわかるセリフ]
「うん。同じ場所にいても、お互いに別な場所を見つめているところが好きなの。そういうひととなら、面白い毎日を過ごせそうな気がする。今日気づいたのは、正面を向いたこのひとが、ちょっと山吹くんに似てること」
つまり、織絵さんは、同じ場所にいても、お互いに別な場所を見つめているような関係を、主人公とつくっていきたいと思っているのです。そういうひととなら、面白い毎日を過ごせそうだから、「こんなふうになれたらいいな」と言っているのです。
「僕」と織絵さんの気持ちがすれ違っているところに、注目していきたいですね。
(問われていること)を確認し、記述を完成させる
この問題で(問われていること)は「どうしてですか」という部分です。理由を問われているので、「○○だから」と解答します。その理由は上記で解説した通り、主人公と面白い毎日を過ごしたいと思っているからです。
次に、解答の前半につけたす文を考えます。この場合、主人公と面白い毎日を過ごしたいと思っている原因をつけたすことで、記述を完成させることができそうです。原因は、「同じ場所にいても、お互いに別な場所を見つめているところが好きなの」というセリフから考えることができます。
[正答例]
同じ場所にいてもお互いにちがうことを感じる関係になることで、「僕」と面白い毎日を過ごしたいと思っているから。(54字)
[問9]記述問題 ―線部⑧に「きっといま、絵画が、生まれる」とありますが、どういうことか説明しなさい。
「絵画が、生まれる」という比喩表現に注目する
この問題は「絵画が生まれる」という比喩表現を読みとれるかどうかがカギになります。「絵画」とは何を象徴しているのでしょうか。絵画からイメージするものを考えていきましょう。
[絵画からイメージするもの]
・白いキャンバスに、様々なものや人物が描かれていく。
・画家の心情やメッセージが表現される。
つまり、「絵画」はと何もないところから新しいものが創造されるものであり、ここでは未来がつくられていく象徴として描かれているのです。
では、ここで象徴されている未来は明るいのでしょうか?暗いのでしょうか?
この物語で重要な役割を果たしているマティスの絵画は、多彩な色使いで様々な人物がいきいきと描かれている絵画であると読みとれます。問題となっている場面が主人公がプロポーズをしようと決心した場面であることからも、ここから生まれる「絵画」も希望に満ちた明るい印象の絵画であると考えられます。つまり、―線部の絵画には、「僕」と織絵さんで幸せな生活を送る未来が描かれると考えられるのです。
「きっといま、絵画が、生まれる」の「きっと」からも、主人公がプロポーズが成功する未来を信じて行動している様子が読みとれます。
(問われていること)を確認し、記述を完成させる
この問題の(問いの中心)は、「どういうことか、説明しなさい」という部分です。つまり、記述の文末は「○○なこと」とならなければいけません。上記で解説したことをもとに考えると、「きっといま、絵画が、生まれる」とは、二人の幸せな生活が始まることであると言えます。
次に、解答の前半につけたす文を考えます。二人の幸せな生活を始めるために、「僕」がプロポーズして織絵さんに気持ちを伝える場面なので、それを説明する文をつけたせば、記述が完成しそうです。
[正答例]
「僕」の想いが伝わり、二人の幸せな生活が始まること。(26字)
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