【2024年度入試問題】”日本一”の志願者を集める栄東中学校(東大特待Ⅰ)国語の説明文[大問3]を解説

今回は栄東中学校(東大特待Ⅰ)の2024年度入試問題を解説します。さいたま市見沼区にある、栄東中学校。首都圏全域から1万人を超える「日本一」の志願者を集める学校として知られています。

2024年度の説明文は『巨大なおけを絶やすな!日本の食文化を未来につなぐ』(著:竹内早希子)が出題されました。子どもたちにとって”桶”が身近ではなく、イメージがわかないため、補足してあげることが大切です。

文章の概要

要約

日本の木桶は現在約4500~4700本あり、そのうち約1100本が小豆島に集中しています。戦後の近代化にも関わらず、木桶の価値を認識して保存したことが理由です。しかし、職人の減少とプラスチック製品の普及により木桶の数は減少しました。木桶で作る伝統的な醤油や酒は個性があり、その価値が再評価されています。

筆者の主張

1.木桶の価値 : 筆者は、木桶が持つ価値が再評価されていることを主張しています。
2.伝統的製法の重要性 : 木桶を使った伝統的な醸造方法は、現代においても保存する価値があると筆者は述べています。
3.近代化と伝統の共存 : 筆者は、戦後の日本において多くの醸造元が木桶を捨てたことに対して、後悔の声が上がっていることを紹介しており、木桶の保存が未来の食文化にとって重要であると考えています。
4.文化遺産としての木桶 : 木桶は単なる道具ではなく、日本の食文化や歴史を象徴する文化遺産であるため、木桶が再び注目され、その価値が認識されることを筆者は望んでいます。

重要語句

1.木桶(きおけ): 木材を使って作られた大きな桶。日本の伝統的な調味料である醤油や味噌、酒の製造に使用されます。
2.醸造業(じょうぞうぎょう): 酒や醤油、味噌などの発酵食品を製造する産業。
3.蔵元(くらもと): 酒や醤油などの醸造所の経営者や、その場所を指す言葉。
4.分業化(ぶんぎょうか): 仕事を細かく分け、それぞれを専門に行うようにすることです。
5.桶師(たるし): 木桶を製作する職人を指します。
6.籠がはずれる(たががはずれる): 緊張が解けて、秩序がなくなることを意味する慣用句です。
7.輪竹(たが): 桶の周りを囲む金属や竹で作られた帯状の部品。桶の形を維持するために使われます。
8.天使の分け前(エンジェルズシェア): ウイスキーやワインなどのアルコール飲料の製造過程で、蒸発して失われる分を意味する言葉。元々は英語で、蒸発する分を「天使に捧げる」というイメージからきています。

重要問題解説[問5]~[問9]

今回の入試問題では、「選択肢がとてつもなく長い選択問題」「選択肢が多くまちがいが微妙な選択問題」「40字~50字の記述問題」「自分なら醸造業を営む場合どうするかを記述する問題」など、解答するのが困難な問題が多く出題されました。これらを解説していきます。

[問5]選択問題 ―線部③「アメリカからみた日本の醸造発酵の世界というのは、ひとことでいうなら『クレイジー』だったようです」とありますが、これはどういうことですか。

選択肢のまちがいを見つける

これは選択肢がとてつもなく長い問題でした。
選択肢の明らかな間違いを見つけていくことが第一歩でので、臆さず挑戦していきましょう。

(ア)の選択肢
アメリカをおびやかすほど技術が進歩、発展して、将来、再び日本が敵国になると危険視された
→アメリカが日本の伝統的な製法に懸念を抱いたのは、日本の技術がアメリカを脅かすという恐れではないからまちがいである。

(イ)の選択肢
異常なことであって
→アメリカが「異常」と見なしていたというのは少し強すぎる表現で、日本の伝統的な製法自体を否定していたわけではないから。

✕材料の支援や協力はできないという判断の原因
→日本の伝統的な製法が原因で支援を拒否したわけではないから。

(ウ)の選択肢
品質もそれほどよくないものに映ったため
→伝統的な製法で作られた製品の品質そのものが低いと見なされていたわけではない。

✕考え方自体を変えようとしたということ
→アメリカの政策は日本の伝統的な考え方や文化を否定し、それを変えることを目的としていたわけではないから。

(オ)の選択肢
✕普通であれば多くかすが出たり、欠減の割合が多かったり時間がかかったりする問題が解決されるため、
→アメリカは、上記の問題が日本の伝統的な製法の課題であると思っていたため、明らかにまちがい。

(エ)が正答である理由

(エ)の選択肢を確認してみましょう。

(エ)アメリカ人からみると、なかなかできあがらないことや作っているうちに量が減っていってしまうこと、材料の半分近くがかすになってしまうことや、汚いと感じてしまうことといった数多くの点で日本で昔から伝統的に行われてきた木桶を使った酒造りや醤油造りの方法は理解できないもので、こういった製品の製造に協力はできないと判断されたということ。


日本の伝統的な製法は非効率であることと衛生面で懸念があることが理由で、アメリカは協力できないと判断したため、(エ)が正答であると判断できます。

[問6]選択問題 ―線部④「当時の状況からすれば無理もないことですが」とありますが、これはどういうことですか。

選択肢のまちがいを見つける

[問6]の選択肢のまちがいをまとめると、以下のようになります。

(ア)の選択肢
GHQからの指示や統制がある状況では
→三増酒や合成酒の製造に至った主な理由は、GHQの指示によるものではないためまちがい。

(イ)の選択肢
贅沢品である酒をつくることが制限されてしまっている
→三増酒や合成酒の製造が広がった主な理由は、食糧不足と経済状況に起因しています。「贅沢品としての制限」よりも、「限られた原材料で酒を製造する必要があった」という内容が正しいため。

(エ)の選択肢
酒で飢えを満たしたい
→酒は飢えを満たすための食糧にはならないのでまちがい。

(オ)の選択肢
✕欠減などの不利な点がある状況下で
→「欠減」とは、酒の製造過程で蒸発などによって量が減少する現象を指しますが、三増酒が作られた理由ではないのでまちがい。

(ウ)が正答である理由

上記のようにまちがいを見つけると、(ウ)が正答であるとわかります。

(ウ)戦後の食糧不足の状況下では、贅沢品である酒は飲めるだけでかまわないので、質の悪い三増酒がはやるのは理解できるということ。

三増酒や合成酒は、限られた資源を効率的に使うための工夫であり、飲料としての需要に応えるためのものだったと書かれているので、(ウ)を選択することができます。

[問7]記述問題 ―線部⑤「これは醤油も同じでした」とありますが、醤油のどのような点が日本酒と同じなのですか。

記述の「核」を考える

記述問題のポイントは、問われてることにできるだけ短く解答することです。
このできるだけ短い解答は記述の「核」となる部分であると言えます。

■問いを確認し、答え方を考える
[問7]は「どのような点が日本酒と同じなのですか」と問われているため、
「○○な点」と解答すれば良いことをおさえましょう。

■指示語「これ」が指すものを考える
指示語が何を指しているのか考え、「何が醤油と同じなのか」おさえていく必要があります。
直前の文を見てみると「いつしか本来の酒の味が忘れられていったのです」と書かれているため、
指示語は「本来の味が忘れられていった」ことを指していると言えます。

■記述の「核」を完成させる
上記のように、問いを確認して答え方をおさえ、指示語の指すものを考えると、
記述の「核」は下記のようになります。

記述の「核」 → 本来の味が忘れられていった点

醤油が日本酒と同じように、戦後の食糧不足のあおりを受けて、本来のものとは異なる製法でつくられるようになり、本来の味が忘れられていったことをまとめれば良いとわかります。

この「核」を記述の最後に配置することで、答え方を誤るミスをなくすことができます。

記述の「核」に文をつけたし、記述を完成させる

記述の「核」の前半部分に、文をつけ足すことで記述を完成させます。
つけ足す文は ①理由 ②説明 ③対比 の中から選びましょう。

今回は、①理由をつけ足していきましょう。
「本来の味が忘れられてしまった」理由を、文中から見つけます。

日本酒の本来の味が忘れられてしまったのは、戦時中から戦後の食糧不足のため、本来の製造法とは異なる粗悪な酒が一般に出回るようになったからです。
醤油も同様に、食糧不足によって原料である大豆の供給が限られ、醤油の生産量が減少しました。それにより、「アミノ酸醤油」「新式醤油」「代用醤油」などが生まれます。

つまり、日本酒も醤油も、
食糧不足のために粗悪な代用品が生産されるようになる → 本来の味が忘れられてしまう
ということが読みとれます。

したがって、この記述問題の解答は

粗悪な代用品が生産されるようになり、本来の味が忘れられてしまった点

このようにまとめることができます。

[問8]記述問題 ―線部⑥「この醸造方法は、日本の醤油醸造業を救った」とありますが、これはどういうことですか。

「この醸造方法」が何を指しているかを明確にする必要があります。本文を確認すると、「アミノ酸液を加えて速醸する」という方法が述べられています。このため、「この醸造方法」は「アミノ酸液を加えて速醸する方法」を指していると言えます。

これをおさえた上で、[問7]と同様に、記述の「核」を考えていきましょう。

記述の「核」を考える

■問いを確認し、答え方を考える
[問8]は「これはどういうことですか」と問われているため、「○○ということ」とまとめれば良いことをおさえます。つまり、「日本の醤油醸造業を救った」という部分を「○○ということ」と言い換える必要があるのです。

■本文から答えになるところを見つける
―線部⑥の後の文から、詳しく説明している文を見つけることができます。

(本文)
アミノ酸液を加えて速醸するというと、現在だとイメージが良く ないかもしれませんが、この発明が「日本の醸造業はクレイジーだ、とても原料大豆を支援することはできない」といっていたGHQを動かし、醸造してつくる醤油業界に原料大豆をまわしてもらえることになったのでした。この技術のおかげで現在の醤油業界が生き残ることができた、といわれています。

「日本の醤油醸造業を救った」とは「醤油業界が生き残ることができた」ということであると説明されています。

つまり、記述の「核」は以下のようになります。

記述の「核」 → 醤油業界が生き残ることができたということ

記述の「核」に文をつけたし、記述を完成させる

記述の「核」の前半部分に、文をつけ足すことで記述を完成させます。
つけ足す文は ①理由 ②説明 ③対比 の中から、①理由を選ぶとうまくまとめられそうです。

「醤油業界が生き残ることができた」理由を、文中から見つけます。

(本文)
アミノ酸液を加えて速醸するというと、現在だとイメージが良く ないかもしれませんが、この発明が「日本の醸造業はクレイジーだ、とても原料大豆を支援することはできない」といっていたGHQを動かし、醸造してつくる醤油業界に原料大豆をまわしてもらえることになったのでした。この技術のおかげで現在の醤油業界が生き残ることができた、といわれています。

本文の青色の部分を短くまとめると、理由が完成します。
アミノ酸液を加えて速醸する → GHQを動かし原料大豆をまわしてもらえた → 醤油業界が生き残ることができた

これを50字以内にまとめると

速醸する方法がGHQを動かし、原料大豆をまわしてもらえたことで醤油業界が生き残ることができた。(47字)

このようにまとめると良いでしょう。

[問9]記述問題 あなたが醸造業を営む場合、伝統的な日本のやり方と、近代的な設備で作るやり方のどちらを行いますか。本文をふまえ、理由とともに答えなさい。

伝統的な日本のやり方を選んだ場合

「自分の意見を書く」という、変わった問題が出題されました。
筆者は伝統的な製造法を見直すことは価値あることであると主張しているので、伝統的なやり方についてまとめた方がまとめやすそうです。

伝統的な醸造の良さが書かれている文
(P3・7行目~)
近年、木桶の良さが見直されてきています。一九八○年代から、こだわりの商品を置く自然食品店や、生活協同組合、会員制宅配の会社などで、蔵元ごとの個性を感じることができて、時間をかけて伝統的な製法でつくる木桶仕込み醤油を選んで買う消費者が増えてきたのです。

この文をもとに、自分の意見を踏まえて書くと、以下のようになるでしょう。

[伝統的な日本のやり方を選んだ記述例]
私は伝統的な日本のやり方を選びます。木桶を使った製法は独特の深い味わいを出し、自然素材で環境にも優しいからです。最近ではその価値が再評価されており、高品質な商品を作れるため、この方法を選びます。


近代的な設備で作るやり方を選んだ場合

続いて、近代的な設備で作る良さが書かれている部分を見ていきましょう。

近代的な設備で作る良さが書かれている文
(P3・10行目~)
近代的な設備でつくられた醤油は、クセがなく、品質のブレもなく、均一にレベルが保たれる反面、個性にとぼしいという面があります。

(P5・15行目~)
さらに、木桶は『不潔』であるとして、極力使わないように、と保健所が指導してまわりました。 →近代的な醸造業が衛生面を重視していることがわかる部分

この文をもとに、自分の意見を踏まえて書くと、以下のようになるでしょう。

[近代的な設備で作るやり方を選んだ記述例]
私は近代的な設備で作るやり方を選びます。その理由は、品質が安定し、効率よく作れるからです。また、現代の消費者は安全性や衛生面を重視するので、近代的な設備の方が安心して使えると思います。


このように、本文から読み取れることをもとに、自分の意見をまとめることがポイントになります。

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