駒場東邦中学校は、東京都世田谷区にある男子校で、難関大学への進学実績を誇る進学校です。50年以上も前から高校入学生を募集しない「完全中高一貫校」としており、中学受験界隈では「面倒見が良い」学校というイメージが定着しています。
駒場東邦中学校の国語は例年、大変文量の多い物語文1題から小問が出題されています。集中して長い文章を読む力が必要です。また、記述問題が合否を分けるといわれており、普段からの訓練が必須です。
2024年度の物語文は『きみの話を聞かせてくれよ』(著:村上雅郁)
この物語は中学受験最多出典で、多くの学校で扱われました。駒場東邦で出題された「タルトタタンの作り方」は、主人公・轟虎之助が、自分らしさを守るために葛藤しながら成長していく姿が描かれています。
- 文章の概要
- 重要問題解説 問6・問8・問10
- (問6)記述問題 ー線部④「わかってるんだ。本末転倒だってことは」とありますが、祇園寺がどのようなことになったのが「本末転倒」なのですか。八十字以内で答えなさい。
- (問8)記述問題 ―線部⑥「ぼくらは自分のままでいたいだけ」とあえいますが、虎之助が「ぼくら」と思ったのはなぜですか。45字以内で答えなさい。
- (問10)記述問題 ―線部⑧「今までずっと押さえこんでいた思いが、明確な言葉となって夕日の下に響く」とありますが、この箇所から分かる虎之助の変化はどのようなものですか。本文全体をふまえて、女の子たちに対する「今までずっと押さえこんできた思い」がどのようなものか分かるようにして、百字以上、百二十字以下で答えなさい。
- 【2024年度入試】駒場東邦中学校 物語文まとめ
文章の概要
あらすじ
中学一年生の轟虎之助はケーキ作りが趣味という個性的な少年。外見や趣味が原因でクラスメイトに「かわいい」と軽く扱われることに悩んでいます。ある日、学校のカリスマ的存在である祇園寺羽紗先輩に、タルトタタンの作り方を教えてほしいと頼まれます。タルトタタンを焼く過程で、祇園寺先輩もまた「自分らしさ」と「周囲からの期待」との間で葛藤していることを知ります。
[作品のテーマ:らしさに縛られない生き方]
物語では、「男らしさ」「女らしさ」「自分らしさ」という概念にとらわれることの苦しさが描かれています。祇園寺先輩は「ボーイッシュな女子」というイメージを守ろうとする一方で、ケーキ作りや甘いものへの憧れを抱きつつ、それを周囲に知られることを恐れています。一方の虎之助は「スイーツ男子」と呼ばれることを受け入れられない様子が描かれています。
登場人物とその特徴
- 轟虎之助(とどろき とらのすけ):主人公の中学1年生の男子。ケーキ作りを趣味としているが、外見や趣味から「スイーツ男子」などとからかわれ、周囲の無神経な言動に傷ついている。
- 祇園寺羽紗(ぎおんじ うさ):新船中学校の生徒会長で剣道部副部長。ボーイッシュな見た目と性格から「ウサギ王子」と呼ばれるカリスマ的存だが、実際には「自分らしさ」を守るために苦悩している。
- 黒野(くろの):剣道部所属の2年生男子で、祇園寺羽紗の同級生。飄々とした性格で、虎之助や羽紗を気軽にサポートする頼もしい存在。核心を突く発言をするが、冷たい印象を与えない。
- 虎之助の兄(龍一郎):サッカー部の元キャプテンで優等生。弟である虎之助と対照的な存在として描かれている。
難しい言葉・重要語句の解説
- 凛(りん)とした:姿勢や態度が引き締まっていて、気品や力強さがある様子。
- 他言無用(たごんむよう):他人に話してはいけない、秘密にしておくべきこと。
- タルトタタン:リンゴをキャラメル状に煮詰めて生地で覆い、オーブンで焼いたフランスの伝統的なアップルパイ。
- ボーイッシュ:男の子のような雰囲気を持つ女子。髪型や服装がカジュアルで、活発なイメージを持つ人を指す。
- スイーツ男子:甘いものが好きな男性を指す言葉。中性的な印象を与えることもある。
- 自嘲的(じちょうてき):自分を笑ったり、皮肉ったりする様子。
- 性差別(せいさべつ):性別によって不平等な扱いをしたり、固定観念で人を評価すること。
- 飄々(ひょうひょう)とした:堂々としていて、何事にも動じない様子。黒野の性格を表す言葉としてぴったり。
- 揚げ足をとる(あげあしをとる):人の言葉尻や些細なミスをわざと指摘してからかうこと。
- 本末転倒(ほんまつてんとう):物事の根本的なことと、そうでないこととを取り違えることを意味する四字熟語。
- 及第点(きゅうだいてん):合格できる最低限の点数や基準のこと。
- 男勝り(おとこまさり):女性が男性以上に活発で、力強さや勇気を持っている様子。
- 文武両道(ぶんぶりょうどう):学問とスポーツの両方を優れた成績でこなすこと。
主人公の心情変化
祇園寺先輩が語る「自分がらしさに縛られることの苦しさ」は、虎之助にとっても共感できるものでした。彼らがタルトタタンを焼く時間は、自分の内面と向き合い、心の重荷を共有する時間でもありました。そして物語の終盤、虎之助はクラスメイトに対して自分の本心を叫び、初めて自分を守るために立ち上がります。「強くなりたい」という彼の決意は、読者に自己肯定の大切さを訴えかけます。
[タルトタタンが象徴するもの]
タルトタタンを通じて、虎之助と祇園寺先輩の心が交わります。「自分でケーキを焼いて食べたい」という祇園寺先輩の願いには、「誰かのための自分」ではなく「本当の自分」でいたいという願望が込められています。
重要問題解説 問6・問8・問10
今回は、記述問題を解説します。100字以上120字以内で解答する問題もあり、書き方のポイントをおさえておかなければ、まとめることが難しい問題でした。以下で詳しく解説していきます。
(問6)記述問題 ー線部④「わかってるんだ。本末転倒だってことは」とありますが、祇園寺がどのようなことになったのが「本末転倒」なのですか。八十字以内で答えなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「どのようなことになったのが『本末転倒』なのですか」という部分です。「〇〇なこと」などと解答すればよいことを確認しましょう。
■「本末転倒」とはどのような状態か考える
(問われていること)に答えるために、「本末転倒」の意味を、子どもが理解しやすいように解説しなければいけません。
[本末転倒]
意味:物事の大切な部分(本)と、それほど重要でない部分(末)が逆になってしまうこと。
(例1)テスト勉強:テストでいい点をとるために勉強するのに、新しいノートやペンを選ぶことにばかり時間をつかってしまう。
(例2)お買い物のポイント:お得に買い物をするためにポイントをためるのに、ポイントをためるために無駄な買い物をしてしまった。
では、祇園寺先輩にとって、何が大切な部分で、何が逆になってしまった部分なのでしょうか。―線部付近の、黒野との会話から考えることができます。
[本文]
「『ボーイッシュな女子らしさ』にとらわれてないか?」
ぼくはおずおずとうなずいた。祇園寺先輩はちいさく笑った。
「そうだね。わかってるんだ。本末転倒だってことは。私はけっきょく、べつのらしさにとらわれていて、ぜんぜん自由なんかじゃない。でも…」
紅茶の入ったマグを両手で包むように持って、先輩は続ける。
「無理なの。私、女の子みたいって、女の子らしいって、そう言われるの、ほんとにこわい。そんなの、その人の偏見だってのも、わかってる。 だけど、だめなんだよ。そう言ってくる人たちは、私のことを『無理して男子ぶってる女の子』っていうふうに見る。そういうありふれた話に落としこもうとする。それが、ほんとうにいやなんだ」
赤ラインのセリフから、本来は女の子らしさにとらわれず自由になりたいという祇園寺先輩の気持ちがわかります。しかし、結果的に女の子らしいと思われないために自由でいられない状態なのです。
■祇園寺先輩の状態を80字以内にまとめる
祇園寺先輩が「本末転倒」である状態をまとめると
①祇園寺先輩にとって大切なこと → 女の子らしさにとらわれず自由でありたい
②結果的に逆になってしまったこと → 女の子らしいと思われないために自由でいられない
①と②は、対比の関係にあるので、「○○だったが」という言葉で①と②をつなげましょう。
文をつなげただけでは字数が足らないので、②の文を少し詳しくしました。
[正答例]
女の子らしさにとらわれず自由でありたいと思っていたが、女の子らしいと思われないために行動するようになって、逆に自由でいられなくなってしまったこと。(73字)
また、「女の子らしいと思われないために自由でいられない」というのは、―線部の直前の黒野の言葉にあるように、「ボーイッシュな女の子らしさ」にとらわれてしまっていたからです。
この言葉をつかってまとめると、以下のような正答が考えられます。
[正答例]
女の子らしさにとらわれず自由でありたいと思っていたが、「ボーイッシュな女の子らしさ」にとらわれて、女の子らしいと思われないために自由でいられなくなったこと。(78字)
(問8)記述問題 ―線部⑥「ぼくらは自分のままでいたいだけ」とあえいますが、虎之助が「ぼくら」と思ったのはなぜですか。45字以内で答えなさい。
■問題文で(問われていること)を確認する
この問題で(問われていること)は「なぜ」という部分です。そこで「〇〇だから」と、理由を答える問題であることをおさえましょう。
■(問われたこと)にできるだけ短く解答し[記述の核]をつくる
記述問題のコツは、(問われていること)にできるだけ短く解答することです。
なぜ「ぼくら」と思ったのか、できるだけ短く答えて[記述の核]をつくります。
では、「ぼくら」とは、ぼく以外の誰を指しているのか、―線部近くの文を確かめてみましょう。
[本文]
祇園寺先輩の思いつめた表情。ウサギ王子の抱えた秘密。
ー女の子みたいって、女の子らしいって、そう言われるの、ほんとにこわい。
そうだ。
ぼくらは自分のままでいたいだけ。そうあるように、ありたいだけ。 それを、関係のないだれかに、勝手なこと、言われたくなかった。
「ぼく」の考えたことを整理すると
[祇園寺先輩の秘密を思い出す]→[ぼくらは自分のままでいたいと思う]
このように、直前で祇園寺先輩のことを思い出しているため、「ぼくら」とは、ぼくと祇園寺先輩のことを指していると分かります。
では、なぜ祇園寺先輩のことを思い出したのでしょうか。それは、祇園寺先輩の悩みに共感したからです。直前に「ー女の子みたいって、女の子らしいって、そう言われるの、ほんとにこわい。」という祇園寺先輩の言葉を思い出し、それに対し「そうだ。ぼくらは自分のままでいたいだけ。」と思っています。ここから、主人公が共感している様子が読みとれます。
ここから、[記述の核]を考えると以下のような記述が考えられます。
[記述の核]
・祇園寺先輩の悩みに強く共感したから。
記述問題で「なぜ」と問われた時には、「強く共感した」などの心情で解答するようにしましょう。
■[記述の核]に文をつけ加える、記述を完成させる
[記述の核]ができましたが、これでは字数が足りません。文をつけ加えて記述を完成させましょう。
つけ加える文は ①対比 ②原因 ③説明 のどれかを、状況によって選択しましょう。
①対比 → 2つのものを比較する書き方です。「○○だったが」
②原因 → [記述の核]の原因を記述します。「○○だから」
③説明 → [記述の核]を詳しくする文をつけ足します。「○○くらい」「○○という」
この場合は、主人公と祇園寺先輩の悩みを、③説明すれば良さそうです。
主人公と祇園寺先輩の悩みとは、他人に「女の子みたい」と言われたくないということなので、それを[記述の核]の前半に書きましょう。
[正答例]
他人に「女の子みたい」と言われたくないという、祇園寺先輩の悩みに強く共感したから。(41字)
記述問題は、核となる短い解答をつくり、それに「対比」「原因」「説明」などをつけ足すことで、完成させましょう。
(問10)記述問題 ―線部⑧「今までずっと押さえこんでいた思いが、明確な言葉となって夕日の下に響く」とありますが、この箇所から分かる虎之助の変化はどのようなものですか。本文全体をふまえて、女の子たちに対する「今までずっと押さえこんできた思い」がどのようなものか分かるようにして、百字以上、百二十字以下で答えなさい。
■問題文を確認する
この問題で(問われていること)は「変化はどのようなものですか」という部分です。
このように、主人公の変化を問われた場合、解答の仕方に型があります。
〈変化前〉…だったけど 〈きっかけ〉…をきっかけに 〈変化後〉…になった。
このような型で解答します。図にすると以下の通りです。
また、問題文に「本文全体をふまえて」とある場合、本文の前半部分の内容を参考に考えることが多いので、文章の前半から関連する記述がないか確認していきましょう。
■〈変化前〉の心情を考える
まずは、〈変化前〉の心情を考えていきましょう。問題文に「女の子たちに対する『今までずっと押さえこんできた思い』がどのようなものか分かるようにして」とあるので、「今までずっと押さえこんでいた思い」がわかるところを見つけていきましょう。
これは、先ほど(問8)で触れた内容と重なります。
主人公は、他人に「女の子みたい」と言われることに不満に思う気持ちをもっていました。
それは、主人公が兄・龍一郎の言葉を思い出す場面でも読みとることができます。
[本文]
「人がなんて言おうと関係ない。自分の道を行けよ」
でも、龍一郎はきっと、ぼくが歩いている道の険しさを知らない。 ぼくの歩幅を、体力を、道に落ちているちいさな石のひとつひとつが、はだしの足をきずつける感触を・・・・・・それは、おたがいにそうなのかもしれないけれど、少なくともぼくは、だれかに「人がなんて言おうと関係ない」なんて、言えない。
人になにかを言われることは、つらい。
自分の道を歩いているだけで、その道に勝手な名前をつけられるのは、歩き方に文句をつけられるのは、どんなに好意的でも笑われるのは、ほんとうにつらい。
■〈変化後〉の心情を考える
〈変化後〉の様子は、―線部周辺の場面から読みとることができます。
[本文]
無邪気にはしゃいでいる、自覚のない加害者の群れ…。
ぼくは歯を食いしばった。
背中を向けて。その場を立ち去る。一刻も早く。
「あれ、待ってよ虎。なに? おこっちゃった?」
頭の中がぐらぐらする。胸のおくでなにかが燃えている。ちりちりとのどをこがす、不愉快な熱。口の中に残っているタルトタタンの味。断りもなく頭をなでてくる手の感触。どこからかこだまする、今にも泣きそうな祇園寺先輩の声。
―ばかみたい。こんなにおいしいのに。むかつく。
「虎ちゃん、かわいい顔が台なしですよ~?」
「ほんとほんと!ほら、いつもみたいに笑って!」
ぼくはふり返って、さわいでいる女子たちをにらみつける。
それから、大きく息を吸いこみ、精いっぱいの声でさけんだ。
今までずっと押さえこんできた思いが、明確な言葉となって夕日の下に響く。
女子たちの表情が固まるのを見ながら、ぼくは思った。
強くなりたい。ゆれないように。
自分が自分であるために、闘えるように。
青マーカーから、女の子たちにからかわれたことに対する、強い怒りの心情が読みとれます。
そして、赤マーカーの文から分かるように、自分らしくあるために闘っていこう思うようになったことがわかります。
■変化の〈きっかけ〉を考える
このように主人公が変化した〈きっかけ〉はなんなのでしょうか。〈きっかけ〉と言われると、女の子たちがからかってきたことであると思ってしまうかもしれませんが、それは主人公の心情が変化したきっかけではありません。
この物語で主人公の心情を変えたのは祇園寺先輩です。これも、(問8)の内容と重なりますね。
以前、「女らしい」とからかわれた時は怒らなかった主人公が、この場面ではじめて怒ったのです。自分と同じ悩みで苦しむ祇園寺先輩を見たことで、自分らしくあることを阻害し自覚なく傷つけてくる存在に、強い怒りがこみあげてきたと考えられるのです。
「以前は怒らなかった主人公が、ここで怒ったのはなぜ?」と問いかけ、祇園寺先輩との出会いで心情が変わったことをおさえましょう。
■記述をまとめる
では、主人公の変化について読みとった内容を整理していきましょう。
〈変化前〉他人に「女の子みたい」と思われることに不満に思う気持ち
〈きっかけ〉自分と同じ悩みで苦しむ祇園寺先輩の苦しむ姿を見た
〈変化後〉「女の子みたい」とからかうクラスメイトに強い怒りがこみ上げ、自分らしくあるために闘っていきたいという気持ちになった
これらをまとめて、記述を完成させていきましょう。
[正答例]
虎之助は「女の子みたい」と思われることに不満を感じていたが我慢していた。しかし、同じ悩みをもつ祇園寺先輩と出会って苦しむ姿を見たことで、からかってくるクラスメイトに強い怒りがこみ上げ、自分らしくあるために闘っていこうと思うようになった。(118字)
【2024年度入試】駒場東邦中学校 物語文まとめ
今回の物語文はどうだったでしょうか。『タルトタタンの作り方』は、自分らしくあることの大切さを描いた物語です。この物語を読んだ後、ぜひ親子で以下のような会話をしてみてください。
1. 「らしさ」とは何か?
「男らしさ」や「女らしさ」に縛られ、葛藤する姿は多くの人が共感できるテーマです。親子で「らしさ」とはどういうことか、話し合ってみてください。例えば、こんな問いかけをしてみましょう。
「あなたの自分らしさってなんだと思う?」
「男だから、女だからといって、何か諦めたり我慢した経験はある?」
2.多様性を認める心を育む
黒野先輩が語る「人は枠組みから外れたやつがいるのが怖い」という言葉は、他者への理解や共感を呼び起こすメッセージです。親子で、多様性を認め合うためにどうすればよいか話し合い、広い心を育むきっかけにしましょう。
「周りと違う趣味や考えを持っている人をどう思う?」
3.自分の強さを見つける
最後に、物語の結びで虎之助が「強くなりたい」と決意したように、親子で「自分の強さ」について話し合う時間を作りましょう。自分らしくあることは簡単ではないですが、だからこそ応援し合う気持ちが大切です。
「自分らしくいるために、どんなことを心がけたい?」
このような対話を通じて、お子さんの理解はより深まります。多様な考えをもつことができる、きっかけにしていきましょう!
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