【2024】第1回サピックスオープン国語B[大問2]物語文の超難問を解説

今回の物語は『いい人ランキング』(著:吉野万里子)
『いい人ランキング』は、2020年に湘南学園中学校・神奈川学園中学で出題されました。
主人公の桃のクラスで「いい人ランキング」というコンテストを行うことになります。桃が第1位になったことからクラスの空気は変わりはじめます。少女が追いつめられていく過程、そして意外なところからその状況を打破していく姿が描かれています。

物語文を読んでいく上で、絶対に必要なことは、登場人物の心情をおさえることです。
今回の問題では、暗示の比喩表現があることで、心情が捉えにくくなっています
心情を正確に捉える力をつけるために、難易度の高かった[問2][問5]の2問を解説します。

[問2]2つの比喩表現を読みとろう

「桜貝」と「寄せてきた波」が表すもの

この問題の[問いの中心]は、主人公が「どのような状態」なのか問われている部分です。
そこで、解答には「~~な状態」と記述していくのですが、
主人公の心情を読解するために、比喩表現の読み取りが必要になってきます。

―――線②に、2つの比喩があるのがわかるでしょうか。

注目するのは―――線②の「桜貝」と「寄せてきた波」という比喩表現です。
「ように」と書かれていることで「桜貝が翻弄される」が比喩表現であることがわかります。
この2つの比喩が表しているものを考えさせます。

このような図をかいて考えさせることが効果的でしょう。

■「桜貝」が表しているもの
では「桜貝」は何を表しているのでしょうか。
本文に「桜貝が翻弄されるように」と書いてあり、この状況で翻弄されているのは主人公の桃だけなので、「桜貝」は主人公のことを指しているということになります。

本文に「(桜貝)の端が欠けていた」という記述もあり、傷ついた主人公を表していることも分かります。


■「寄せてくる波」が表しているもの
続いて「寄せてきた波」が表すものを考えます。
―――線②の直前の会話文で

[圭機]「(いい人だというのは)否定しにくい。否定しにくければしにくいほど、たいていの人は心の底で少しだけイラッとする」
[主人公]「そっか……わたしはイライラさせちゃってたんだ」

とあるので、「寄せてきた波」とは、「主人公がクラスメイトを不快にさせていたことに気付いた」ことなのでしょうか。

しかし、その解釈では「寄せてきた」という表現と合致しません。
「主人公に波のように押しよせてきたもの」を表す比喩であると考えると、クラスメイトが主人公に対して行ったこととらえることが妥当です。

クラスメイトが主人公に対して行ったこととは、―――線②の後の圭機の言った言葉

[P6・13行目]「君をいじめるきっかけをつくるため」
[P6・18行目]「つまり、『いい人ランキング』は、君が選ばれることがわかった上での、陥れるための罠なんだよ」

つまり、「寄せてきた波」が暗示しているものは、クラスメイトが主人公を陥れるために仕掛けた罠であるということになります。

主人公が翻弄されている状況をイメージする

「桜貝」と「寄せてきた波」について考えることができたので、
その状況を具体的にイメージして、解答につなげていきましょう。

「波が寄せてきているところを見ったことがある?」
「桜貝が水の中を舞っているって、どういう状況なの?」

と聞いて話をし、子どもとイメージをつくっていきます。

文章を映像化するための指導が重要になります。

その上で「桜貝(主人公)が翻弄される」とは、どういう状況なのかを読み取っていきます。

桜貝のように波にもまれながら、苦しんでいる様子をイメージしていきましょう。

「翻弄される」とは、「自分の意に反して行動や感情がコントロールできなくなり振り回されること」を意味します。つまり、主人公は「クラスメイトに困らされている(混乱させられている)」と読み取ることができるのです。

[問5]情景描写が表しているものを読み取ろう

「分厚い脱脂綿」と「雲」が暗示しているものを読み取ろう

この問題の【問いの中心】は、主人公の「どのような気持ち」がわかるかと、問われている部分です。

そこで、主人公が「どのような気持ち」なのか読み取るために「分厚い脱脂綿を思い起こさせる雲」が何を暗示しているのか、考えていく必要があります。

■「雲」が暗示しているもの
ここで押さえておきたいのは、雲が不穏なことが起こりそうな例えで使われるということです。
【暗雲(あんうん)が立ち込める】という表現は慣用句で、危険や破局などの起こりそうな不安な気配がただよう、という意味があります。

つまり、いじめの対象になってしまった主人公がこれから起こることに不安をもっていることを暗示している表現であることを押さえておきましょう。


■「分厚い脱脂綿」が暗示しているもの
では、なぜ「分厚い脱脂綿」がここで出てくるのでしょうか。
「分厚い脱脂綿」と「雲」という、全く関係ないものが並べられている理由を記述で説明する必要があるのです。

上図のように、主人公が雲から脱脂綿を連想している状態です。
つまり、母が入院した時に主人公が抱いた感情と、いじめを受けてしまった現状の心情とが重なっているという説明できます。

「雲」と「脱脂綿」が暗示している大きな不安や絶望感を読み取れるようにしていきましょう。

主人公の心情の原因を考える

では、なぜ主人公が不安な気持ちになっているのか、―――線⑤の周囲の文章から原因を考えていきましょう。

このように、(1)~(5)と―――線⑤も含め、主人公の(マイナス心情)がたくさん書かれています。それぞれの原因は、次のようになります。

(1)(2)絶望・苦しみ
→ なぜこのような状況になったのか理解できず、衝撃を受けているから。主人公の言葉の「……」からも、言葉も出ないほどの衝撃を受けていることが読み取れる。

(3)怒りの感情 
→ 自分が苦しい状況であるのに、圭機の言葉や態度が軽薄であるから。

(4)(5)絶望・憂鬱
→ 対処しきれないほどの大きな問題を抱えてしまっているから。歩くのもやっとである状態から、このような感情が読み取れる。

つまり、主人公がこのような心情になってしまったのは、自分が人に悪いことをした覚えがまったくないのに、考えもしなかったところで嫌われて、いじめられてしまったからです。

このように、心情の原因を考えて思考を整理し、主人公の気持ちを正確に記述できるようにしていきましょう。

「心情の原因をたどっていく」ことで、正しく記述できるようになっていきます。

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